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翻訳あそび - オジマンディアス

旅のひとに聞いたよ。古い土地からきた人は語るよ:
ふたつのそびえる、胴のないあしがあってね。
石でつくられて、砂漠のなかに立ってるよ。
そのわきの砂のうえに、なかばしずんだ顔があってね。
いかめしくもつぶれて、しわのよった唇でつめたく命令してわらってるよ。
つたわるのは彫刻師のたくみだよ。
かれらが読みとったほとばしる思いは、魂のない物たちに刻まれて今もある。
かれらの手がそれらをかたどり、かれらの心がそれらをはぐくんだんだよ。
台座にあるのはこんなことばだ:
「我が名はオジマンディアス、王の中の王である:
我のなせるわざを見よ。ますらおどもよ、思い知るのだ!」
いまそのかたわらにあるものはない。なにも。
崩れてまるくなった巨大な残骸があるのは、無辺の地だ。
平坦な砂のひろがりはさびしい。どこまでも。

【翻訳してみて】

イギリスの作家・詩人パーシー・ビッシュ・シェリーがラムセス2世の遺跡をテーマに書いたらしいソネット「Ozymandias」(1818年公表)の翻訳です。日本の元号に直すと文政元年という幕末期の江戸時代ですが、あえて、漢字をできるだけ使わない現代語として訳しました。

この詩の風情は「夏草や兵どもが夢の跡」(松尾芭蕉)に似ていますね。

ラムセス2世は古代エジプトの王(ファラオ)です。ラムセス2世のギリシャ語の名前のひとつがオジマンディアス。ラムセス2世の像はアブ・シンベル大神殿に4体並んでいて、そのうちの向かって左から2つめの1体が壊れているそうです。

アブ・シンベル神殿は、建設後、長い年月の内に砂に埋もれていたそうで、1813年に小壁の一部が発見され、1817年に出入り口が発掘された、ということです。シェリーがこの詩を書いたときにはまだセンセーショナルなニュースだったのかもしれません。ところで、頭部が足元に転がっている像が壊れたのは、建造後わずか数年後の地震によるものだとか。悠久の時間の流れの中で朽ちて崩れたというわけではないことをシェリーはたぶん、知らなかっただろうと思います。

ソネットをwikipediaで引くと「シェリーはラディカルに革新し、『オジマンディアス』(Ozymandias)というソネットではシェリー独自の押韻構成(「ABABACDCEDEFEF」)を創造した。」と書かれています。そういうことならと、この翻訳でも意味的な改行位置は同じではありませんが14行の形にはして、脚韻もいちおう同じように踏んでみました。

次に掲げるのは、行番号と押印構成の印を付けた原文です。

Ozymandias - Percy Bysshe Shelley

01 I met a traveller from an antique land - l[and] A るよ(*1)
02 Who said: Two vast and trunkless legs of stone - st[one] B てね
03 Stand in the desert. Near them, on the sand, - s[and] A るよ
04 Half sunk, a shattered visage lies, whose frown - fr[own] B てね
05 And wrinkled lip, and sneer of cold command - comm[and] A るよ
06 Tell that its sculptor well those passions read - r[ead] C だよ
07 Which yet survive, stamped on these lifeless things, - th[ings] D ある
08 The hand that mocked them and the heart that fed; - f[ed] C だよ
09 And on the pedestal these words appear: - app[ear] E だ
10 "My name is Ozymandias, king of kings: - k[ings] D ある
11 Look on my works, ye Mighty, and despair!” - desp[air] E だ(*2)
12 Nothing beside remains. Round the decay - dec[ay] F も
13 Of that colossal wreck, boundless and here, - h[ere] E だ
14 The lone and level sands stretch far away. - aw[ay] F も

(*1) traveller が -ll- と綴られているのは英国式だそうです。(米国式は l ひとつの traveler )。

(*2) 脚韻 E の3つは同じ脚韻とされていますが、 appear【əpíər】(アピア), despair【dispéər】(デスペア), here【híər】(ヒア) のうち despair は発音が他と違います。なぜ同じ脚韻として扱ってしまうんでしょう。もしかして、シェリーの時代には発音が同じだったのでしょうか?

【画像出典】アブ・シンベル大神殿 https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a9/Abu_Simbel_great_temple_03.jpg [CC BY-SA 3.0]

【参考】
Asimov, Isaac (1977) "Familiar Poems, Annotated" Doubleday. p.1-p.4
アブ・シンベル神殿 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E7%A5%9E%E6%AE%BF 2020-4-25 08:44‎
ソネット https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88 2020年4月10日 (金) 13:43
Ozymandias  https://en.wikipedia.org/wiki/Ozymandias ‎2020-4-30 02:35
English Romantic sonnets https://en.wikipedia.org/wiki/English_Romantic_sonnets 2019-12-19 03:40



スキひとつじゃ足りないっていう気持ちになることがもしあったら、考えてみていただけると、とてもわかりやすくてうれしいです。