DC Nikkorという魔法のレンズ
ニコンのウェブサイトを見ると、DC Nikkorレンズが「旧製品」になっていました(わたしが知らなかっただけで、かなり前に生産終了していたようです)。愛すべき個性派レンズは、ひっそりと姿を消しました。
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DC Nikkorは変態レンズです。
ピントリング、絞りリングのほかにDCリングがあり、それを回すことでレンズの配置を変えて収差をコントロールできるのです。R側に回すと後ボケがなだらかで前ボケが硬くなり、F側に回すと逆に後ボケが硬くなります。回す量が大きいほどピント面が不明瞭になり、絞りを開き気味に撮ればソフトフォーカスレンズのような写りにすることもできます。
はじめてのデジタル一眼(D80)を買うとき、カメラをそれまでのキヤノン/コンタックスからニコンにしました。その最初の(唯一の)望遠レンズとして買ったのがDC Nikkor 135mmです。
DCという機構に興味があったわけではありません。むしろ、そんな機能はいらないと思っていました。ただ、ニコンの135mmは他に選択肢がなかったのです。
手にしたDC Nikkor 135mmは明らかなダメレンズでした。
DCリングを0位置にしていてもパープルフリンジがものすごく(日中に人を撮ると髪が緑と紫に…)、晴れた日には使い物にならないレベル。ところが、埃が目立ってきてニコンに清掃に出し(DC機構のせいか大きい埃がばんばん入ります)、帰ってきたレンズを使ってみて驚きました。開放からそこそこ普通に使えるレンズになっていたのです。レンズの設計の問題ではなく、新品時のレンズの組み方がダメだったようです(その後、カビが入ったり落下させたりして計3回オーバーホールしていますが、そのたびに写りが変わります。幸い、新品時ほど描写がひどくなったことはありません)。
DC Nikkorの写真を見ると、植田正治さんの「白い風」を思い出します。
「白い風」はベス単で撮った写真をまとめたものです。ベス単は1群2枚のシンプルな構成のレンズで、それゆえに収差が大きく、ソフトフォーカスのような写りになります。DC NikkorのDCリングをR側に回して撮った写真は、そのベス単の写真に似ているのです。焦点の柔らかさだけでなく、どこにあるかわからないピント面、すっ飛ぶハイライト、重い描写などがそっくりです。
その後、デジタルでもキヤノンを使うようになりました。
でも、このDC Nikkor 135mmは手放さずに、アダプターをつけて使っています。決して優秀なレンズとは言えませんが、手放せないレンズなのです。
レンズ自体の描写が重いので、重い写りのニコンのデジタルよりも透明感のあるキヤノンの方が相性がいい気がします。
最後に少し小声で話しますが、
こんなにも個性的な表現ができる唯一無二のレンズなのに、世界はどうやらこのレンズの凄さに気づいていないようです。いまなら中古価格も(上がり気味ではありますが)そこそこお手頃です。
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