「なんでもないことを、心配していない?」心の中で、不安がふくらんでいったライオン(イソップ物語)
不安をあおる情報や、無責任な批判が、周りにあふれています。
「それが世間なんだから、なにもビクビクしなくていいよ。だって、ライオンにさえ、こんなことがあったんだから」
と、イソップが励ましてくれている話があります。
広い草原に、真っ赤な夕日が沈みかけています。
一頭のライオンが、沼の近くを歩いていました。
すると、
「グゥオー、グゥオー」という声が聞こえてきました。
沼の中に、何かがいるのです。
「グゥオー、グゥオー」
その声は、だんだん大きくなります。
大地を震動させるように響き渡るのです。
ライオンは、
「不気味な声だ! どんなやつが隠れているのだろう」
と緊張し、身構えました。
見えない敵を前にすると、想像が膨らんでいきます。
「あの声から察するに、よほど口が大きいに違いない」
「これまでに、見たこともない巨大な生き物だろう」
「今、戦って勝てるだろうか」
心がひるんだ、その時です。
ガサガサッと、草むらが動きました。
「来たぞ!」
ライオンは、跳ぶように後ろへ下がります。
やがて、平然とした顔つきで、沼から出てきたのは、
一匹のカエルだったのです。
「アレッ……」
拍子抜けしたライオンは、
「百獣の王ともあろうものが、耳だけで想像して、
うろたえるとは……」
と言って、恥ずかしそうに去っていきました。
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