わざとらしいこと、大げさなことは、必ず失敗しますよ〜仁和寺の弁当箱(『徒然草』第54段)
失敗談は、笑えます。でも、笑うだけでは、もったいない! このエピソードには、どんな宝が埋まっているでしょうか。『徒然草』54段を意訳しましょう。
(意訳)
「子どもたちを、喜ばせる方法はないかな?」
「びっくりさせて、楽しく遊びたいものだ」
仁和寺(にんなじ)の僧たちが、ひそひそと話し合っています。
やがて彼らは、しゃれた弁当箱に、おいしい食べ物を詰め、大きな箱に収めました。そして、仁和寺の南の丘に穴を掘って埋めたのです。箱の上には、紅葉の葉っぱを、たくさんかけておきました。
「これでよし。こんな所に弁当箱が埋まっているなんて、誰も気づかないだろう」
仕掛けを完了した彼らは、子どもたちを誘いに行きました。
広場で遊んだあと、弁当箱を埋めた辺りに並んで座り、
「ああ、疲れたね。休もうよ」
「どこかに、おいしいものはないかな」
「そうだ、君は修行で、すごい力を身につけたそうじゃないか。ここで祈ってごらんよ」
などと言い合っていました。
すると、おもむろに一人の僧が立ち上がり、数珠をもんで呪文を称え始めました。両手を大げさに動かして印を結び、
「えい!」
と叫んで、地面を覆っている赤や黄の葉っぱを取り除き始めました。
子どもたちは、興味津々、大きな目を凝らして見つめています。
ところが、葉っぱの下には、何もありませんでした。
「あれ! 場所を間違えたかな……」
不思議な力を身につけたはずの僧が、慌てて別の所を掘ってみましたが、やはり何も出てきません。
実は、彼らが弁当箱を埋めるところを目撃していた者がいて、こっそり盗んでいったのでした。
そうとは知らない彼らは、みんなで手分けして、丘のあちこちを掘り起こしていきます。
しかし、ついに怒りが爆発!
「埋めた場所くらい覚えておけ」
「誰が、こんなことを考えたんだ」
「悪いのは、おまえだ!」
と、とても僧侶とは思えない汚い言葉でののしり合い、腹を立てて帰っていきました。子どもたちにとっては、とても、つまらない日になってしまったのです。
どんなことでも、わざとらしく、大げさなことをしようとすると、必ず失敗するものなのです。
(かいせつ)
仁和寺の僧侶が、子どもたちの前で、数珠(じゅず)をもんで呪文を称えている姿が、目に浮かんできそうです。
兼好法師は、ただ笑って人生訓を書いただけではないと思います。
兼好法師も、出家した僧侶です。この時代の僧侶に向かって、、次のような皮肉を込めているのではないでしょうか。
「呪文を称えたら、弁当箱が出てくるなんて、どの経典にも書かれていないぞ。呪文や、まじないは迷信だと、お釈迦さまは教えられたではないか。もっと真面目に勉強せよ!」