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ウィー・アー・オール・アローン(ウィズ・ユア・オウン・シェイド)

2年前の暑い日の夜の家路、つい先日よちよち歩きの小鴨たちを見守る親鴨が迷い込んで、近隣住民たちが息を潜めるほどの慎重さで見守る、すぐ近くの池に繋がる小さな流れ沿いをなぞる、緑道のベンチで出会って、お互いコンビニで買ってきたビールやら発泡酒やらを少し離れたベンチでひとりで飲んでいたのだが、やがてどちらからともなくポツポツとモノローグが融合してダイアローグになるみたいな感じで話し始めた名も知らぬ英国人は今頃故郷の町にいるはずだ。だんだん彼のトークのテンポが上がり、地域を特定できない英国訛りがひどくなり、ついていけなくなってきたわたしが頷くだけのフェーズに移行したことを察した男は、そろそろ今夜もカーテンコールの準備だなと意を決し、最後の別れのタイミングで「日本に来て10年、英語覚えたいだけの、自分が一番かわいい女性にしか出会えない。ここでは愛など見つからない」と帰国を決意した夜だったことを告白したのだった。別れ際に名前を聞いたら名前などどうでもいいだろと言われ、匿名のまま別れた。わたしは街灯に照らされて真っ黒なわたし自身の影とふたりぼっち。

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