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まちぼうけ

あたらしい朝が来たのでアラームを止めて案の定二度寝してスヌーズの抜け道編み出してやっと上半身を折り起こし、時計を見やれば午前9時、君との約束に間に合わないかもと、急いでシャワーを浴びながら歯を磨いて、髪がパサつかないように最近覚えたトリートメントオイルを半乾きの髪になでつけて、コーヒーを淹れましょう、と、キッチンに立つも豆が切れている。育ててる豆苗の成長に一瞬気が逸れる。コーヒー、一日の始まりはコーヒー、この胸の高まりはコーフィー、と下唇に軽く前歯を当てて改めて発音したらば外、小春日和の外、徒歩、8分ほど、のところにあるキャッフェに入店したらばブレンドコーヒーのS、時間がないのでS、前歯の隙間から破裂音、エスとエムとエルは東京弁だと最後の子音が強く発音されないために、全部一緒に聴こえがちなので厄介、その点で小・中・大はわかりやすいのに、sh、ch、d、なんてわかりやすい、だのになぜ、みんなエスエムエルなのか、日が昇るとき、きみはゆくのか、そんなにしてまで、という間にいよいよ10時、待ち合わせの情事、ヴィンテージのアディダスのジャージ、で待てども待てども来ず、これはちょうど3年前の今日のデジャヴではないのかと、わたしは生前に作った短い歌を口ずさんでいる。

もしもぼくが死んだら
いつかぼくが死んだら
妖怪豆挽きになって
ずっと君のそばにいるよ
最寄りのドトールで待ってるよ
カウンターの向こうから
何度でも君の名を呼びたいけど
ぼくは君の名を知らないから
君のオーダーしか叫べない

ミラノサンドBをお待ちのお客様
ミラノサンドBをお待ちのお客様
ミラノサンドBをお待ちのお客様
ミラノサンドBをお待ちのお客様
(以下丑三つ時まで繰り返し)

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