森林環境譲与税を活用した森林・林業の振興【青森市議会令和5年第1回定例会・予算特別委員会質疑原稿】

(質疑)

次に森林環境譲与税についてです。令和元年度より都道府県及び市町村への配分が始まりました森林環境剰余税ですが、令和4年度より、剰余税全体の金額及び市町村への配分割合が上昇したことで、令和4年度当初予算ベースでの本市での森林環境剰余税額も、約7600万円と、令和3年度に比べて約25%アップとなりました。また、これまで都道府県及び市町村へ配分する譲与税の財源は、「地方公共団体金融機構の準備金」から、簡単にいうと前借りして、実施しておりました。

 いよいよ令和6年度からは、個人住民税における年間1人1000円、森林環境税が課税されることとなります。よって、より森林環境の保全や林業・木材産業の振興による地域活性化につながるような使途が求められる状況です。そこでお伺いします。本市における森林環境譲与税の総額及び使途をお示しください。


(「譲与税の総額7601.5万円、使途は、森林経営管理事業・林道整備事業等に1315.8万円、森林公園や森林博物館の管理運営等に4825.8万円、公共施設の整備に伴う木材の利用促進などに1459.9万円」などと答弁あり)


(再質疑1)

 市町村が森林林業施策を推進していく上での大きな課題として、専門知識や経験を有する人材がいないことが挙げられます。市町村における専門人材の確保の支援として、地域林政アドバイザー制度というのがございます。地域林政アドバイザーとは、森林・林業に関する一定の専門資格を有する個人または、有資格者が在籍する法人に対して、市町村森林整備計画の策定など施策の企画立案や林業関係者等への指導・助言といった業務を委嘱することができる制度です。市町村が地域林政アドバイザーの雇用や委託に要した経費については、その措置率は市町村では、1人あたり500万円を上限として7割が特別交付税措置の対象となります。また、この特別交付税措置を受けた残額を、つまり市町村負担分ですね、こちらを森林環境剰余税を財源として充当することもおそらく問題がないものと考えられます。

 また、もう一つの市町村で専門人材を確保する方法として、圏域の市町村で地域協議会を作るという方法があります。

 埼玉県秩父市をはじめとする、秩父地域1市4町では、「秩父地域森林林業活性化協議会」をおき、この協議会の中に「集約化推進室」を設置し、2名の推進員が各市町と連携しながら、9年間で意向調査や境界確認等を実施する計画を実行中です。この集約化推進室の事業費約800万円を、各市町村が森林環境譲与税から拠出しています。

 そこでお伺いします。森林環境剰余税の使途として、地域林政アドバイザーに業務を委嘱することや、圏域市町村で協議会を作りそこに専門人材を配置するという考えはないか、お示しください。


(「青森県内では黒石市と三戸町に地域林政アドバイザーが雇用されている。地域協議会は県内に先行事例なし。他市町村の事例を注視」などと答弁あり)


(再質疑2)

 1年の支給額500万円というと、県や国の再任用職員の給与より高い水準であり、十分専門知識を持った人材が集められるかと考えます。ぜひご活用をご検討いただきたいと思います。

 市町村での森林・林業の専門人材確保と同時に、林業従事者の確保も非常に重要です。青森市の林業従事者数はH27年には194人となっており、平成7年の491人から、半分以下となっています。今後、森林の適切な管理経営を進めていく上で、林業従事者の確保は急務です。

しかし、人材獲得の足枷になっているのが、労働環境です。林業は、安い・きつい・危険のYKK職場と言われており、特に問題になるのが「危険」労働災害の多さです。労働者千人あたり1年間に発生する死傷者数である千人死傷率は、全産業中の中で最も高い状態が長く続いております。ちなみに令和3年の数字をあげますと、林業24.7、他産業平均は2.7、建設業は4.9となっております。

 労働安全性を高めるためには、防刃性能のある作業着や作業靴の着用などが有効な手段とされており、法令でも着用が必須とされています。しかし、こうした安全具は高価であり、林業従事者自身が用意する場合にも、事業体が用意する場合でも非常に大きな負担となっています。

 新潟県柏崎市では、林業従事者に支給する現場手当・安全衛生手当などの特殊手当等への支援を林業事業体に対して実施しております。 

 そこでお伺いします。青森市でも、こうした林業事業者むけの労働環境改善の取り組みが必要と考えますが、これまでの取り組みをお示しください。


(「今後のより一層の取り組みに向けて他自治体の取り組みを注視していきたい」などと答弁あり)


(要望)

 労働災害が多いことは、林業従事者の金銭的待遇を向上させていく上でも重い足枷になっております。例えば、雇用主が全額負担する労災保険料の保険料率は、産業ごとの千人死傷率で決定しますが、林業の保険料率は6%で、林業より料率が高いのは、「水力発電施設ずい道等新設事業」と「金属鉱業、非金属鉱業又は石炭鉱業」の2つだけです。黒部の太陽、海峡、幸せの黄色いハンカチの世界です。石原裕次郎、高倉健、ハードボイルドな男の仕事は映画の世界ではかっこいいですが、社会保険の現実は厳しいわけです。

 この高い労災保険料率は、給与水準が高まらないことにつながります。ただでさえ人手不足で他産業との人材の奪い合いがあるのに、これでは人材確保の競争力が持てるはずもありません。個人的な意見ではありますが、給与水準が安いことは、労働災害の増加にもつながっていると感じます。給与が低いということは儲けが少ないことであり、雇用者は「なんとか儲けを出さないと」安全より速度となってしまいます。雇用されている側は「きつい仕事なのに給料が安いから・・・」と自尊心が低くなりますし、技能を磨こうというやる気も出てきません。チェーンソーや刈り払い機で手足を斬ってしまうような事故は防刃性能のある作業服で防げても、死亡事例で最も多い、伐採した樹木の下敷きになるような事故は、本人が技能向上に努め、自分を大事にして気をつけるよりほかありません。

 やはり、適切な森林管理経営の実施のために、森林環境譲与税を活用した林業労働安全への直接的な取り組み、柏崎市のような手当の支給であるとか、安全用品購入への補助などが必要と考えます。

 最後に譲与税全体の青森市での使途について意見要望をお話しさせていただきたいと思います。青森市の林業費は、譲与税導入前のH30年度は1億1174万、導入後はR5当初は1億175万円と、変わらず約1億円で推移しております。平成30年度は譲与税はゼロ、令和5年度は約7600万円です。このことが示すのは、譲与税が新規事業ではなく、これまでも林業分野で実施してきた必須の事業の財源を剰余税に振り変えただけという実態かと思います。

 厳しい財政事情は理解しますし、森林環境譲与税は、「森林の整備に関する施策」「森林の整備の促進に関する施策」に充てるとされており、使途自体は適切です。

 しかしながら、せっかく財源があるわけですから、ぜひ意欲的に新しい取り組みに挑戦していただきたいと思います。課題は、青森市には現在森林・林業の専門人材がいないことですが、地域林政アドバイザーや圏域協議会の活用など、人材確保にあたっては財源、スキーム共に解決策も用意されています。

 森林林業は、資源が地域に存在し、公共建築物や住宅への地域材利用を促進することによって需要と供給を地域で完結させることができるという点で、循環型の地域経済振興に有効な手段になり得ます。

 川上である森林の適切の管理経営のための人づくり、川中、木材産業の振興による木材供給体制作り、川下、木材利用局面では、公共建築物への木材利用と、幅広く譲与税を財源にして取り組むことができます。ぜひ積極的に他市町村の取り組み事例を研究し、部署を横断して意欲的な事業を実行していただくよう要望して、私の質問を終わります。

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