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なぜ大学では対面授業が難しいのか ——大学と小中高とのちがいについて


 最近、なぜ大学生だけがいまだオンライン授業であり、登校できないのか、という疑問・不満を、ネット上でみかけます。その疑問や不満は、至極当然のものであり、大学側も現状の改善に真摯に取り組まなければならないのは言うまでもありませんが、まず大学と高校までの学校とのちがいを理解しておく必要があるでしょう。というのは、そのちがいから、コロナ禍への対応も、必然的に異なったものとならざるをえないためです。
 (以下の記述は、あくまでも教育学を専門としない筆者が、一般的な小中高大を念頭に述べたものです。たとえば、「クラス」という概念のない小学校もあるのかもしれませんが、そのような例外は扱うことができませんので、ご了承ください)
 
①学生の出身、居住地域の多様性
 公立の小中学校であれば徒歩での通学圏内に学校があるのが一般的であり、高校であっても、その都道府県内であるのが一般的でしょう。徒歩での通学が可能であれば、通学の間の感染のリスクはほとんど心配する必要はないでしょう。また高校生となり、電車通学となっても、同じ都道府県内であれば、通学時間は比較的短時間に収まるといえます(勿論、例外はあるでしょうが)。
 それに対して、大学では、他の都道府県から通学している学生も多く、通学時間が二時間を超えるという学生も珍しくはありません。そのような学生は、通学時間における感染のリスクやそれについての不安は相対的に高まることになります。
 また、高校までは、全寮制を除いて、ほとんど地元の学校に通うというのが一般的であるのに対して、出身地が多様であるということも、大学の特徴といえます。実家から徒歩や自転車で通える大学に進学した大学生もいるでしょうが、むしろ希少であり、地方の実家を出て、一人暮らしをしている学生が多いわけです。そのような学生のなかには、今回のオンライン授業への移行を受けて、実家へ帰っていっている方が、かなりの数いることでしょう。

 以上のような様々な条件の異なる学生が所属しているということが、今回のコロナ禍に対して対応するに際しての大学特有の困難さの理由のひとつといえます。たとえば、大学で一部の授業のみ対面授業を実施しようとした場合、以上のような様々な条件の異なる学生に対して、不公平なものとなりかねません。たとえば、大学の収容人数を計算し、設備を調整した結果、週に一回の対面授業ならば可能となったとしても、その一回の授業のために、地方から上京してもらう、あるいは一人暮らしを再開してもらうというのは、その負担が大きすぎますし、通学時間が長い学生にとっても感染のリスクやその不安を抱えたまま登校下校しなければならないことになります。


②授業形態の異なり
 小中高までは、基本的にクラスが固定され、それぞれのクラスに担任がいるという、クラス構成です。小学校では、多くの科目を担任教員が担当し、中高ではそのクラスに各科目の教員が入ってくるという授業形態となります(図工や家庭科ではクラス単位で特殊教室に移動しますが)。このように小中高の授業は、一時間目から終わりまで、クラスというユニットが固定されたうえで、その同じクラスで授業が実施されるという点に特徴があります。このことは、教師がクラス単位での生徒の状況の把握を容易とするとともに、たとえば、手洗いのマスク着用の徹底や仕切りを作ったり、ソーシャルディスタンスの確保や、ある日は「出席番号が奇数の生徒だけ」「翌日は偶数の生徒だけ」が登校し、登校しない日はオンライン授業を実施するという措置を比較的容易とするでしょう。
 それに対して、大学の授業では、基本的に小中高のようなクラスというユニットは構成されず、授業ごとに教員だけではなく受講者のメンバーも教室も変わっていくということなります。このことは、クラス単位での生徒の状況の把握を不可能とするだけではなく、ソーシャルディスタンスの確保や、ある日は「出席番号が奇数の生徒だけ」「翌日は偶数の生徒だけ」が登校するという措置を困難とするでしょう(同日の一時限目の授業は「対面の週」、二時限目の授業は「オンラインの週」など)。また大学生は自分の好きな講義を選ぶことができるため、一時限目から五時限目まで連続して履修している学生もいれば、一時限目と五時限目しか履修しておらず、二時限目から四時限目までは空いているという学生も存在します。そのような学生が大学内で安全にすごせる場所を確保できるのかどうかということも問題となります。
 また、部分的に対面授業が可能となった場合、一日の時間割に対面授業とオンライン授業が混在することになり、リアルタイムで参加しなければならない双方向型の授業に関しては、どこで授業を受けるのかという問題も発生します。ただし、オンライン授業でも、オンデマンド型と資料配布型ならば、そこまで問題とはならないといえます。

 以上は、大学が、学生の年齢が上がり、個々人の裁量の余地が増えたこと(その分責任も増えたこと)で、あらゆる意味で相対的に自由度が高くなったこと、つまり出身地・居住地・講義などの点で自由が増えたうえで選択する教育機関であることによって、引き起こされる困難さといえるでしょう。
 とはいえ、以上のことは、小中高と同様には大学での対面授業が実施することが難しいことを示していますが、だからといって、大学での対面授業が不可能であることは示しておりません。また、本稿は、「だから対面授業ができなくても仕方がない」ということを主張するものではありません。以上の大学特有の困難さを理解したうえで、それをいかに克服していくのかということが考えられなければならないでしょう。

 実際に、現在各大学では、大学生の心身の状況を把握しつつ、安全性を確保しながら以上の困難さを克服し、実施可能な対面授業の方途を検討しているところだと思います(多分)。

 個人的には、(私はオンデマンド型+資料配布型なので)一度も学生の顔を見ないまま、Ⅰ期(前期)が終わることに対して、後ろめたく残念な気持ちがあり、一度きちんと顔を見てお話ししたいという気持ちはあります。しかし、私の勤務している大学ではⅠ期は難しそうです。
 Ⅱ期(後期)は、学生の皆さんと会えるよう、希望を持ちたいと思います。


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