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オンライン授業のポジティブな可能性

 当初、オンライン授業は対面授業の緊急避難的な代替物であり、どうしても対面授業ほどの学修効率は達成できないと悲観的に考えていたのですが、オンライン授業を何回か行い、学生の反応を見てみたところ、もう少しポジティブに捉えられるのではないかと肯定的に捉え直しているところです。
 まず確認しておきたいのは、現状、コロナ禍によって日本の大学で実施されているオンライン授業は、(私の授業も含めて)やはり対面授業の代替物でしかないということです。つまり、できれば対面授業を行いたいがそれが不可能なので、学修効率は落ちることは覚悟したうえで実施されているといえます。
 しかしⅠ期の授業も半ばを過ぎ、対面授業の代替物以上のポテンシャルがあるのではないか、と思うようになった次第です。つまり、オンライン授業には対面授業の代替物にはとどまらない別種の良さがあり、仕方のない代替物ではなく、選択肢のひとつとして考えることはできないか、と考え直すようになりました。
 対面授業では身体性が現前し、時間と空間が共有されることによって、また学習者どうしの協働学習が可能であることによって、学修効率を高めることができるため、それらが失われることがオンライン授業のデメリットといえますが、それは同時に、オンライン授業特有のメリットでもあると捉え直すことはできるように思いました。
 これまでの対面授業では、空間と時間の共有が当たり前のこととして、それを学生に強制していたといえます。コロナ禍によるオンライン授業の強制的な導入は、その自明性を再考し、実は別の可能性もあるということを示しているといえます。以下、まずはオンライン授業の形式なメリットを挙げておきます。

①(教員/学生ともに)移動の時間的/経費的負担が軽減されること。
②実家から遠い大学に進学した学生にとっては、一人暮らしをすることよる家賃/光熱費を含む生活費の負担が軽減されること。
(③通学/大学内での新型コロナウイルスに感染のリスクを低減させること。)

 オンライン授業導入にあたっては、機器や通信環境の整備という点での、金銭的な負担がデメリットとして強調されることが多いですが、以上の①②のようなメリットもあるだろうことを指摘しておくことは、一定の意義があるでしょう。無論、以上の①②によって、学生の負担が相殺されるわけではなく、学費や生活費の面で大変な状況にいる学生は多いので、それを補うような施策が必要なのは当たり前ですが。
 さらに、対面授業にはないメリットとしては、

④対面での協働学習が苦手な学生にとっては、受講しやすい環境であること。

 教師から学生への一方向授業への批判として導入された、アクティブ・ラーニングやピア・ラーニングという手法は、単に知識を覚えるのではなく、知識を実際に生かせるようになるように定着させることを目指したものであり、一定の成果を挙げてきたといえるでしょう。しかし、それを苦手とする学生が一定数いたことは事実です。そのような学生にとっては、学生同士の協働による活動が相対的に少ないだろうオンライン授業の全面的な実施は、学習環境の改善となっているといえます。(補足的にいっておけば、オンライン授業でも学生同士の協働学習は不可能ではないですし、広義の意味でのアクティブ・ラーニング(学生の理解を深めるような活動の導入)は可能でありますし、むしろ一般の授業よりも推奨されるといえます)
 ④は、対面授業が苦手な学生にとってはオンライン授業のほうが、という消極的なメリットでしたが、しかしもう少し広い範囲の学生にとっても、オンライン授業は特有のメリットを有しているのではないかと思うのです。

⑤オンデマンド型、資料配布型の授業では、時間の空間の共有が強制されないために、自分のペースで理解、思考することができるようになる。

 従来の対面授業でかつ一方向的な授業は、特定の空間と時間を共有することを強制することで、それぞれの学生の資質、理解の早い/遅いに対応することができないという性格をもっていたといえます。これまでの授業においても、小テストなどで学生の理解度の確認を行い、適宜、復習の機会を増やすことや、グループワークによる教え合いの機会を増やすことなどによって、この欠点を是正することは試みられてきたといえますが、すべての学生に合わせた授業を行うことは困難だったといえるでしょう。
 オンライン授業の本格的な導入は、空間と時間の強制性(拘束性)から相対的に自由な教育を実現することで、学生それぞれのペースで学ぶことを可能にするでしょう。それは、私の「オンデマンド型」授業の感想として寄せられた、以下のコメントが示していることです。

「普段の授業と違い、聞き取れなかった箇所は聞き直すことができるので、オンライン授業にもメリットがあると感じました。」
「ウェブ上での授業にまだ慣れませんが普段の授業よりゆっくり考えられる時間が増えた気がします。」
「オンライン授業では対面とは違い一人での思考時間を長く持つことができるので、落ち着いて自身の意見を考えることができそうです。」
(以上、哲学科三年生以上が受講可能な「哲学演習3」初回の感想)

 すなわち、空間と時間を共有することによる強制性から解放されたことで、自分なりにゆっくり考えを深める時間を持つことができ、さらに一度では聞き取れなかったところや理解しきれなかったところを再度視聴することができることこそが、最大のメリットといえるでしょう。つまり、従来の対面/一斉授業では学生それぞれの個別的なレディネスに対応することが難しかったところが、学習者のペースで進めることができることで、一定程度解消することができるのではないかと思います。
 上述のような自由は、学生一人一人が授業やその課題に取り組まねばならないために、その責任を大きなものにします。それは学生に主体的な学ぶ責任を自覚させるという意味で意義があるといえるとともに、学生の責任を過大にするという意味では、何らかのフォローが必要となるケースもあるでしょう。

 オンライン授業の教材を生かした具体的な授業案については、また別の記事で書きたいと思います。

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