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【小説】クお白チ 001【第一期】

7月下旬の夕方、親方の車の中で
「明日から6時に待ち合わせ出来るか」
「平気だよ」
「しばらくおまえ一人で仕事してくれ」
「へっ?」
「器具の取り替えだけだから、お前一人でやってくれ」
「はぁ…親方はなにするの?」
「俺は新しい現場で配管だ」
「帰りは?」
「あぁ、むかえに来るよ」
「分かった」

次の日の朝、現場に着いた。学校じゃん…
「ここの教室の灯具とコンセントとスイッチ全部取り替えとけ」
「期間は?」
「まかせるが、夏休みが終わる前だ」
「あぁ、なるほど…」
親方に道具と材料がどこにあるかとか、複雑回路スイッチの配線のやり方とか必要な事は全部聞いて
「じゃ、まかせたぞ」
「分かった。気をつけて」
車で行ってしまった。やっぱり一人だと心細い。まぁ、うだうだしてても仕事が進まないから始めた
学校は3階建てで、各階に12の教室、あと渡り廊下も頼まれた
最初にコンセント72ヶ所をやっちゃおうと思って、回り始める。俺は1日70個は付けられたから、頑張れば1日で終わるなって思ってた
甘かった…古いコンセントを外してそこから電線抜いて新しいのを付ける。30個位しか出来ない。自信喪失…

次の日は正門で降ろされて現場へ

昼過ぎになったらなんか外が騒がしい。窓から見ると部活やってるみたい。あぁ、夏休みでも部活は有るんだよなぁ…

コンセント付けてるとたまに三人くらいの足音が聞こえるんだけど、俺はそれどころじゃない。コンセント器具が古いから、配線の先が錆びてて一々配線切って皮をむいて取り付けなくてはならない。それでもコンセントは2日で終わらせた

校庭の声も聞こえなくなった時間に親方が見に来て
「どうだ?」
「器具が古いからやりにくいね」
「どこまで終わった?」
「コンセントは終わった」
「おまえ早いなぁ」
俺、ちょっとドヤ顔

次の日はスイッチ。これは各教室1ヶ所しかないから全部で36ヶ所6時くらいまでに終わらせて、余った時間で渡り廊下のコンセントとスイッチを終わらせた

ここからが大変だった。各教室に蛍光灯が16灯。灯具付けるのに脚立を立てる必要があるんだけど、机を退かしてやらないと出来ない。泣きそうになった。学校の天井ってちょっと高い。それも作業の邪魔をした
汗は目に入って見えなくなるし、服は張り付いて動きにくいし、おまけにヘルメット!いいかげん嫌になってヘルメット脱いでハチマキしてた。夕方薄暗くなってから、あれ?って思った事があった。帰り道に親方に聞いてみた
「トイレは?」
「やるよ」
あぁ、それで灯具と防水のコンセントとスイッチが余ってたんだ…

次の日。どうせトイレの工事やるんだから灯具とスイッチも付けちゃおうって思って、全部の材料をトイレに運んだ。トイレは各階で灯具6ヶ所、スイッチとコンセント1ヶ所ずつ……なんか違和感を感じた…

電気工事屋の常套手段なんだけど、高いところから作業する。つまり3階から。ゴミを持って下りなきゃいけないから高いところからやる

昼ちょっと前に3階と2階の1/3は終わったんで、次に工事するトイレ以外のところをウロウロ見てた。むこうから女の子が五人こっちへ歩いてきたので
「あのさ、この辺にコンビニある?」
「ええ、正門を出て右にいって、十字路を左に曲がったところにあります」
「ありがとう」
その足でコンビニへ行って、弁当と2リットルのペットボトル3本買った。いくらだって飲めた。汗で出ちゃう。汗が止まると熱射病になっちゃう

午後4時くらいに1階のトイレ工事をしてると女の子が三人入ってきて
「キャ!」×3
「ヘッ?あぁ、ごめん。悪いけど2階は終わってるからそっち使って」

1階のトイレの灯具を付け終わって、ハッ!って気が付いた。この学校、トイレが各階に1ヶ所ずつしかない!男子用の便器が一つもない!
女子校だよなぁ…言ってよ親方…
俺この時点まで、一度もトイレを使って無いので気が付かなかった

親方がむかえに来た
「なんで女子校って教えてくれなかったの?」
「あれ?言わなかったっけ?」
「知らなかったもん」
「正門に○○○女子高等学校って書いてあるだろ」
「そんなの見てないし、そう言う問題じゃないでしょ…」
「なんで気が付いた?」
「トイレが各階に1ヶ所ずつしかないから」
「あはははっ」

笑ってごまかすんじゃねーよ!

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