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【小説】クお白チ 012【第一期】

やっぱり次の教室は2/3しか終わらなかった。なんとかして1日2教室は、終わらせたい…でも、増発注は冬になる可能性の方が高いって親方も言ってたし、今心配しててもしょうがないって自分に言い聞かせた。道具を片付けて、廃材置き場に持って行ったら親方が来た。開口一番
「まずい事になった」
「増発注?」
「冬休みは校舎を開けない」
「なんで?」
「用務員が正月で帰郷しちゃうらしい」
「って事はこの夏休みにやらなきゃダメって事?」
「そういう事だ」
「親方は手伝えないの?」
「こっちも増発注があって、手伝えるとしても27日と28日だけだ」
「やるよ。なんとかする」
「あぁ、そうだ2階の渡り廊下の下の蛍光灯器具も取り替えだ」
「増えたんだ?」
「スイッチもな。コンセントは無い」
「相談がある」
「なんだ?」
「用務員に8時まで仕事させてくれってたのんでよ」
「8時じゃ真っ暗だぞ」
「ヘッドランプ使えばゴミを運ぶくらい出来るよ」
「なるほど」
「あと、女の子達を手先に使っていい?」
「なにをやらせる」
「机の移動と掃除と段ボール集め」
「それくらいならいいが、来なかったらどうする」
「来なかったら来なかったでなんとかするよ」
「絶対に怪我をさせないって言えるか?」
「言える。絶対に怪我はさせない」
「擦り傷一つでもダメだぞ」
「分かってる」
怪我の事は本当は自信がなかったがこう言うしかなかった。建築関係は工期が遅れるのが当たり前の業界だ。でも、俺は工期中に最初の発注分は終わらせられる。いくら手先だってプライドはある。絶対に終わらせてやるって闘志しか頭になかった
親「じゃ、用務員室に行こう」
鍵をかけるのに用務員がいる。親方は口下手だ。俺が交渉した方が良いと思った。ドアを叩いたら60歳位の男の人が出てきた。親方が言った
親「工事を8時までやりたいんですが、ダメですか」
用「どういう事ですか?」
親「増発注があったんです」
用「増発注???」
俺「今までの工事に、廊下の工事が増やされたんです。7時までだと時間が足りないんで、あと14日14時間欲しいんです」
用「あぁーそういう事ですか」
俺「お願い出来ますか?」
用「鍵を預けるのはどうでしょう?」
俺「お借りしてもよろしいですか?」
用「閉める時に校舎に生徒がいない事を確認してくれれば貸します」
俺「それは必ずやります」
用「まぁ、8時まで残っている生徒はいないと思いますけどね」
俺「お願いします」
用「ちょっと待って下さい」
心の中でガッツポーズ
用「これです。閉めるのは下駄箱のある出入り口だけです」
俺「裏庭に出るドアと南と北、1階の渡り廊下のドアは?」
用「あぁ、あれは全部内鍵ですから鍵はいりませんが閉めて下さい」
俺「分かりました、お預かりします。ありがとうございました」
親「ありがとうございました」
用「あぁ、無くさないで下さい。それと職員には言わないで下さい」
俺「分かりました。責任を持ってお預かりします」
用「今日も閉めて帰って下さいね」
俺「分かりました。ありがとうございました」
親「ありがとうございました」
南と裏庭と1階の渡り廊下は良いとして、問題は北側だ非常階段があるから3階まである
「親方、俺一人で行ってくるから、時間計ってて」
「おう」
階段を駆け上がる。3階、2階、1階、渡り廊下、裏庭、南。親方の所へ駆け戻る
「6分強だ。ただ走るな」
「あぁ、そうか。でも十分いけるな」
「それにしてもおまえは口が上手いな」
「親方が口下手なだけでしょ」
「おまえといるとしゃべらんでいいから楽だ」
「最初から俺が交渉しようと思ってたもん」
「あははははっ」
また笑ってごまかすし…
出入り口に腰道具を置いて帰る事にした。鍵は確実に閉めた。車の中で器具が明後日届く事を聞いた。器具は電材屋に運ばせれば良いとも言われた
「廊下の灯具って何灯?」
「各階で39灯ずつだ。渡り廊下下は4灯。ただ防水器具だ」
「廊下のコンセントは何ヶ所?」
「各階に13ヶ所」
「階段は?」
「2階と3階と屋上に各1灯ずつ。コンセントは4ヶ所」
「スイッチは?」
「屋上1ヶ所、廊下と階段のスイッチが3ヶ所、ボックスは一緒だ」
「渡り廊下下は?」
「スイッチ1ヶ所だけだ」
「分かった」
俺が下りる場所に着いた。助手席のシートの上に鍵を置いて軍手を乗せた
「これで鍵は無くならない」
「おまえ上手い事考えるな」
「あははっ」
「明日から終りのむかえは8時でいいな」
「じゃなきゃ意味ないでしょ」
「俺も一時間延ばせるから助かった」
「じゃ、明日」
「おう」
親方は帰っていった。家に歩き出して、途中である事を思いついて走った。店が閉まっちゃう。ぎりぎりセーフ。店に着いて軍手を選んで

「これの女物を16双、あとこのカッター8本。この靴も。領収書下さい」

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