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『笑いの哲学』ができるまで(7)「ナイツそっくりのネタをつくってくれ」と出した課題に学生たちはこう答えた

私は関東圏のいくつかの大学で「滑稽なものの美学」という科目タイトルの講義を10年ほどしてきました。『笑いの哲学』(木村覚著、講談社選書メチエ、2020年刊)は、ここで話したことをまとめたというところがあります。

このシリーズの2回目に書いた(↑)のは、そうした大学での講義で出会ったある学生のエピソードでした。

ところで、本書の第二章では「不一致の笑い」を論じていますが、その中でナイツのネタの分析を丁寧にしております。これは、よく講義の中でも、取り上げ分析してきたところでした。

講義では、ナイツのネタを簡単に分析した後で、「来週までにナイツ風のネタを作ってくること」という宿題をよく出しています。ナイツのネタのポイントと言えば「言い間違え」ですが、例えば、こういうポイントを事前に学生と確認していきます。

・「言い間違え」とは「言うべき言葉」と「言うべきではなかった言葉」との間で部分的な(意味の上ではなく、たいていは音素の上での)一致が起きているものである

・それだけではなくて、そのボケ(言い間違え)が何を言い間違えたものかが観客にわかるように、ツッコミは実は細かい知識を観客に提供している

・笑いに不要な言葉は極力ネタに入れない

ナイツの技は多岐に渡ります。こうしたことをしっかりと理解するためには、実際に学生にネタを書いてもらうのが一番良い教育法なのです。たとえば、三年前の東京都内の私立大学で実施した際の、高得点のレポートがこれです。

ボケ こんにちは。最近残念なことがありましてね。
ツッコミ ほう、なんですか
ボケ 日馬富士が変態発表しましたね。
ツッコミ 引退発表だよ。失礼だろ!!
ボケ 色々問題になったから仕方ないかもしれないですけどねえ、ピンヒールで殴打とか。
ツッコミ 瓶ビールだよ、日馬富士、ピンヒール履かねえよ
ボケ ただね、色々証言も浮上してきてるらしいんですよ。
ツッコミ あー、ニュースでやってましたね。
ボケ なんでも、日馬富士と貴ノ岩は二人で夜会しているそうですよね。
ツッコミ 若いだろ!! なんでちょっといやらしい感じになってるんだよ!!

「引退発表」を言い間違えて「変態発表」と言ってしまうとか、それを「引退発表だよ。失礼だろ!!」は拙いところもあるけれど、ナイツ土屋のツッコミに際して一言添える(「失礼だろ!!」)感じができています。とくに「変態」「ピンヒール」「夜会」などのワードを用いて「ちょっといやらしい感じ」にボケているのが、このネタの特徴で、共学大学の女子学生が書いているのが、楽しんで実施している感じで、好きなんですよね。

こういう課題を「構成論的アプローチ」と呼んでいます。「作ることによって理解する」研究方法です。そういうことは、ロイ・フラーを研究するというダンスの課題として行ったりしています。これからも積極的に授業に取り入れていこうと思っています。

もう一本。優秀作を紹介します。これぐらい書けたら、人を爆笑させるために検算を積まねばならないよしもとNSCでは不合格かもしれないけれど、ネタとは何かを研究する大学のレポート課題として十分合格あげても良いですよね。

ボケ 今年流行ったアニメといえば、「ばけものフレンズ」というのがありましたね。
ツッコミ それを言うなら「けものフレンズ」だろ。ばけものだったら妖怪ウォッチになっちゃう。アニメ見ながら食べたいものといえば「カール」だけどこれは西日本のみでしか買えなくなってしまったね。
ボケ 今後はカールおじさんじゃなくローカールおじさんに改名かな。
ツッコミ 無理にローカルにかけなくていいから。
ボケ あと家族との方向性の違いでどうしても買えなかったものがあるんです。
ツッコミ 何? 車とか高額なものですか?
ボケ 任天堂フイッチです。
ツッコミ 任天堂っていう家庭内での意見の不一致みたいになってるけどそれ、品薄で買えなかっただけだろ。

「ばけものフレンズ」っていいですよね。「ローカールおじさん」も秀逸です。「任天堂フイッチ」もセンスを感じさせますよね。これは合格!!


新刊が出ました。ナイツのネタの詳細な分析も行っています。↓もしよかったら、Amazonで本書を覗いてください!!


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