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制作環境今昔~ゲームデザイン事始め⑥~

写真上はソニーミュージックのクリエイターブースでの一コマ。ちょうど『クーロンズ・ゲート』マスター直前、1996年11月頃であろうか。とあるゲーム雑誌の「クリエイターの仕事場」というコーナーで取材を受けたときのカットだ。古本屋の親父よろしく資料本の山に埋もれている。使用しているコンピューターはマッキントッシュCentris6100というピザボックス型の機種でメモリは16MBであった。
ちなみに下の写真は2020年2月、『クーロンズリゾーム』のシナリオ執筆を開始した頃のもの。資料のほとんどはブックマークなどに姿を変えた。もっとも大きな変化は、この間、25年にわたってシナリオ執筆経験を積んだことかも知れない。今ではモバイルPCとコワーキングスペースでゴリゴリ書き進め、ようやく2020年9月に第一稿にたどり着いた。文字数は台詞ベースでおよそ22万字、しかしまだ稿を重ねるので、ボリュームは増えていくはずである。あらためて第一稿を読み返すと、回収しきれていない伏線も見つかるだろう。それらをメインシナリオで回収すべきか、サブシナリオに移すべきか、あるいはスピンアウトシナリオとして後日リリースするか──悩むところはまだたくさんある。まぁ、楽しい悩みではあるが。
もう一度、20数年前に話を巻き戻し、巷間伝わるムーアの法則をあてはめれば、およそ数千倍ものハードウェアスペックになっていることになる。当時、九龍城を描いたのはシリコングラフィックス社製のCGに特化したマシン、Onyxという小型冷蔵庫くらいはある「モンスター」だった。コンピューターエリアを冷やすために、オフィスの中に家庭用エアコンを設置、エントランス脇のポリタンクでドレン水を処理していた。このマシン様、メモリスロットが1つしかなく、256MBにアップグレードしたとき、およそ2,000万円かかったと聞いた。1MBあたり約78,000円である!そんなマシンで、ドブに沈める廃棄自転車のスポークを一本ずつ作るという狂気じみた作業をしていたわけだ。そうやって作った映像解像度は320*240、QVGAという、これまたNTSCテレビの1/4の小さなサイズでフレームレートは15/secであった。
──まさに隔世の感あり。そして、もうひとつ大きな変化といえば、ユーザーの目が肥えたということだろう。
当時、廃墟的なダンジョンをさまようというゲームはほとんどなかった。それだけに「すごい」と評価された肌感をよく覚えている。でも今は違う。少し古いが『ディビジョン』(UBI)なんて物理原則を入れまくったSnowdrop Engineを駆使して、廃墟になったニューヨークの街をまるごと描いていた。車の排気ガスに光が反射するなどパーティクル処理も当然に備わっていて、正直、こういったAAA(トリプルA)クラスのゲームにはとても太刀打ちできない。薄く積もった雪がクルマの轍から順に溶けていくとか──もう自転車のスポークとか作っている場合ではない。
Snowdrop Engineで九龍城を作れば、陰界マフィアのド派手な抗争劇でもやりたくなってくる。被弾したネオン管がバチバチ弾けたり、ハンドグレネードが爆竹屋前に落ちて誘爆する。風水師も『マトリックス』みたいな格好になって敵の銃弾を避けるのである。ロングマガジンのMAC10を両手持ちにする風水師──すっかり「クーロン」ではなくなってしまう。
今作『クーロンズリゾーム』の制作にあたり、前作以上に「設定&シナリオ」重視で臨もうと決めた。そしてグラフィックスはクオリティの担保されているアセットを積極的に用いる。既存アセットに超オリジナルな設定&シナリオ──この組み合わせでいくしかない、そう腹をくくったわけだ。
この取り組み、思えば映画やドラマに近い。設定にぴったりなロケ地を選ぶと、とある近代ビルが軍の司令部になったり、新聞社になったり、名門医大になったりする。あるいは東京狸穴警察署とか──
という昨今の制作環境を鑑みつつ、とにもかくにもシナリオを、と執筆に没頭していた。「クーロン2」の制作発表ティザーを2019.12.28に行っておきながらも音沙汰なしだったのは、そういう理由があったからである。

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