<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<5>
寝返りのころ
とうとう、寝返りができるようになった。
ただ寝っ転がっていた生き物が、自由に動くようになってしまったのだ。
この衝撃は、一緒に暮らした者しか分からないと思う。
「じゃあ、綾は真ん中で。雄輝くん、寝返りして潰しちゃ、や、だからね」
宮子に念を押される。僕だって自分の子供を潰したくはないよ。
しかし僕たちは甘く見ていたのだ、寝返りを打つ子供というものを。
まさに「川の字」になって寝る僕たちの真ん中で、綾は夜中に回転し始めた。スペースがないならその場で回る、まさに立体式駐車場の発想、が彼女にあったかは知らないけど、無事に四分の一周してのけたあと、そのままゴロゴロと布団の外に出て行ってしまった。
その光景を、僕も宮子も途中からじっと見ていた。
「人間の生きるパワーってすごいね」
何の気無しに宮子が呟いて、思わず笑ってしまった。
「ぷっ、ホントにね」
「さあ、脱走犯を連れ戻そうか」
そう言ってよっこらしょ、と宮子が立ち上がった。その間も綾は必死?に転がっていく。
だが巨人からは逃げられない。ほどなく捕まった綾は、大声で泣くのだった。
「あらら、運動したからお腹空いたかな」
「じゃあ、ミルク作ってくるよ」
お互い笑いながら、ミルクの準備を始めるのだった。
サポートいただけると嬉しいです。 いただいた費用は画集や資料、イラスト制作ガジェットの購入に充てさせていただきます。