<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<20>
晴太のほっぺ
綾は暇さえあれば、晴太のほっぺたを突いている。
とても気持ちがいいそうだ。
そんなに力いっぱい、ではなく、優しく沈み込んでいく綾の指。
晴太はそれを疎ましく思っているのか、面白く思っているのか、わずかに身じろぎする。
僕と宮子はその様子を後ろから眺めていた。
宮子がそっと綾と反対側に寝そべる。
そして、綾とタイミングを合わせてほっぺたを突いた。
「う~、う~あ~~~」
晴太が手足をばたつかせる。
「嫌がってるんじゃないの?」
「そうかも」
「やめなよ」
「だって、気持ちいいもの」
そういって再びほっぺたを突く。
先ほどまで嫌がっていた晴太が、ほっぺたに当たっている二つの指を握った。
「ぶ~、ぶ~あ~」
跳ねのけようとしているのか、振り回している。
「たた、いたいいたい」
綾の指が曲がらない方向に曲げられようとしていて、痛がっている。
晴太の復讐だ。
一方で宮子の指は、さすがに大人だからか微動だにしていない。というより好きなようにさせているが思うように動いていないというところか。
「せーた、やめる、やめるから」
綾が指を引き抜いた。赤ちゃんの方が加減を知らないだけに強い。ぷー、と頬を膨らませた綾は、そのまま晴太の隣で顔を眺めている。
「お餅見っけ」
その様子を見ていた宮子が今度は綾のほっぺたを突きだした。
「あー、やー!」
嫌がりながらも、綾はニコニコしていた。
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