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オーバーヘッドアスリートはオーバーヘッドでウェイトトレーニングをするべき?

13年ほど前、僕がアメリカの大学野球部でトレーナーとして働いていた時、投手はベンチプレスなどのヘビーウェイト系のトレーニングは一切しないというルールがありました。同大学には当時ストレングスコーチは1人しかおらず、野球部はアメフト部のトレーニングメニューを監督があれこれアレンジしたものを使っていたのを覚えています。

当時野球を担当するのが初めてだったので自分で色々調べてみたのですが、当時から野球選手(特に投手)はベンチプレスのようなヘビーウェイトはあまりせず、しかも肩より上にウェイトを上げるオーバーヘッドエクセサイズはご法度という意見が主流だというのが分かりました。ローテーターカフのインピンジメント症候群のリハビリでもオーバーヘッドエクセサイズはほとんどさせず、症状が収まるまで肩より下の可動域で軽めの運動を多少させる程度でした。

オーバーヘッドエクセサイズをする前に必要なこと

ところが最近はそれとは逆の意見が増えてきています。今日はロバート・パナリエロ氏が自身のブログで書いた記事を紹介します。彼は理学療法士としてアマチュアからプロレベルまで様々な種類のスポーツのアスリートのトレーニングやリハビリを担当している人です。そして当初から野球などのオーバーヘッドアスリートに対してオーバーヘッドエクセサイズを用いています。

ブログ内で彼はリハビリ後のパフォーマンス向上のためのトレーニングでは身体の質の向上にフォーカスする必要があるといいます。これにはスキルの練習を繰り返し行うことで達成することができ、結果アスリートの技量を向上させることに繋がります。

Vermeil氏の成長ピラミッドとPanariello氏のリハビリモデル

ロバート氏がオーバーヘッドアスリートのリハビリやトレーニングプログラムを作成する際に基礎となっているのがVermeil(ベルメイル)の運動発達段階構造です。このチャートについては彼の以前のブログ(https://simplifaster.com/articles/applying-vermeil-athletic-development-hierarchy/)で紹介しているので興味のある人はリンク先から確認してみてください。

アスリートが高いパフォーマンスを発揮するためには、動的エネルギーをいかに素早く地面に伝えるか、すなわち反発力の高さが重要になります。オーバーヘッドアスリートも例外なくこれに当てはまります。そしてこの反発力を高めるためにはまず基盤となる下半身の強さ、下半身から上半身に力を伝えるためのコア(胴体)の強さ、効率よく投げる動作につなげるための上半身の靭やかさなどが必須条件になります。

怪我の不安要素

近年まであまり着目されませんでしたが、加速した身体を止めるための筋力も怪我の防止のためにとても重要です。オーバーヘッドアスリートに起こりやすい怪我の一つにローテーターカフのインピンジメント症候群があります。一度インピンジメント(衝突)が起こると肩峰下の骨・靭帯に腱が圧迫されて組織が損傷したり痛みが出ます。一般的に腕をリラックスした状態では肩峰の下部分から上腕骨の一番の上の部分まで9~10mmあって、腕が120°外転した状態では4.8mmまで狭まります。最近の研究では実際にはインピンジメントは腕を上げる度に常に起こっていて痛みが出る原因は他にあるという意見もあります。とはいえ先天的にこのスペースが狭い人はインピンジメント症候群になりやすいので、リハビリやコンディショニング時には注意が必要です。

オーバーヘッドパフォーマンスに必要な条件

どんなアスリートもトレーニングを始める前に、そのトレーニングに耐えるための準備段階が必要になります。そのうちの一つに上腕骨の可動域の確保があります。理想としては上腕骨が180°屈曲できることですが、実際には個人差があります。MLBのピッチャーの肩の屈曲も150°〜180°とかなりバラつきがありますがパフォーマンスにはあまり関係ないように見えます。しかし利き腕の肩屈曲が逆の肩の可動域より−5°落ちるだけで肩・肘の怪我の確率が上がるという研究結果もあるので常に注意したいところです。

当たり前かもしれませんが、トレーニング中に肩に痛みが出ないことも重要です。通常ローテーターカフや関節自体に問題があると、肩を60°〜120°外転させた時に肩の前側・外側に痛みが出やすくなります。この時に無理してトレーニングを続行してしまうと更に深刻な問題に発展する恐れがあるので気をつけましょう。オーバーヘッドエクセサイズでは90°〜120°の間でトレーニングする事が多いので、日頃から正しいテクニックで行うことを心がけてください。

拳上時に肩にかかるストレスを軽減する方法の一つに、上腕骨の角度を肩甲骨の角度に合わせるという方法があります。これをすることによって1)関節が安定する、2)拳上時関節包にねじれが生じにくい、3)ローテーターカフと三角筋の出力のバランスが良い、4)肩甲骨も上回転しやすくなる、などの利点があります。

とはいえどんなに効率の良いトレーニング方法を使用しても必ず疲労は貯まります。疲労が蓄積した状態でトレーニングを行うと怪我のリスクが上がりことも覚えておきましょう。

まとめ

これらのポイントを踏まえてトレーニングをすればオーバーヘッドエクセサイズもリスクを最小限に抑えれるとロバート氏は言います。しかしながら世間的にはまだオーバーヘッドエクセサイズを煙たがる傾向にあるので、こういったトレーニングを行うにはまずクライアントとの信頼関係の構築が最優先でしょう。

それでは、

<参考URL>
https://simplifaster.com/articles/should-overhead-athletes-lift-overhead/


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