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幼き日に培われた美意識で、いつも心が動くのは古典。きものも、音楽も

今回は、音楽家である小林かおりさんにお話を伺いました。

チェンバロ楽器の演奏活動や、サロンコンサートのプロデュースの他、指導者としてもご活躍中です。

「チェンバロとは、バロック音楽で用いられる楽器で、ピアノより歴史が旧く、実は一度途絶えていました。それを再び蘇らせようと活動をしている先生方と出会い、私も導かれるままに演奏をするようになりました。

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取材は紅葉の名残を楽しめる晩秋でした。肌寒く感じる日でもあったので、防寒対策には白鳥のマフラーで遊び心を。

チェンバロだけでなく、着物も友禅で表現された四季の美しさや、琳派など古典の柄に強く惹かれます。旧いものに心が動かされるのは、小さなころから美術品や工芸品に触れていたからかもしれません」

かおりさんのお父様は、美術関係の仕事をされていました。

「家には絵画や工芸品があり、さらにカレンダーに至るまで、とにかく美術関係のものが。父は、気に入らないものは着せられないと家族の洋服まで管理していたほど、美意識の高い人でした。
また、祖母や母は着物が好きで、私も小さな頃から祖母が縫った着物を着せてもらっておりました」

かおりさんは、審美眼のあるお父様と着物が好きなお祖母様、お母様の影響で、幼い頃から当然のように美しいものに囲まれた毎日を送っていたそうです。

時を超えて届いたのは、亡き父からのメッセージ

かおりさんがお父様に誂えてもらった成人式の着物は、振袖ではなく、付け下げでした。

「当時は学校に成人式用の振袖のカタログがたくさん届き、生徒同士で集まって、学食で賑やかに見るのが恒例行事でしたが、私は振袖には興味が持てませんでした。父にそのことを伝えると、確かに振袖ではなく、長く着られる訪問着や付下げがいいかもしれないと賛成してくれたので、落ち着いたピンク地の加賀友禅の付下げを買ってもらうことに。いまでも着ているほど気に入っています」

主張しすぎない奥ゆかしくも華やかな加賀友禅は、その後もご自身で求めていると教えてくれました。成人を迎えたあの日から、ずっとかおりさんの着物のひと時に寄り添っています。

そして最近、桐箪笥から想像もしなかった幸せが。

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裏を表に出してお仕立てし直した道行コート。紅葉の季節になると、情景に寄り添う着こなしを楽しんでいます。

「父は成人式の付け下げと一緒に、綺麗な緋色の道行コートも作ってくれました。
“このコートは裏が落ち着いたピンク地だから、歳を取ったら裏返して作り直しなさい”と言われたことを今になって思い出し、畳紙を開けてみると、道行コートと一緒に入っていた余り布に添えられたメモに気づきました。

手に取ってみると、“十分な着尺があるから帯に”と。間違いなく父の筆跡でした」

それは亡くなって何十年も経つお父様からのメッセージでした。

「先日、そのメモ通りに道行コートとお帯をお仕立てし、父にはその通りにさせていただきましたよとご報告しました。見覚えのある筆跡はとても懐かしく、幸せな気持ちになりました」


自分で着ることで生まれる喜びを、まずは身近な方たちへ

そして今、かおりさんは着物がもたらす幸せや喜びを、多くの女性にも知って欲しいと願っています。

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品のある優しいピンク地の地紋起こしの小紋にアイスブルーの染め帯を合わせ、色のトーンを抑えた装い。

「突然、外出先で「あら素敵ね〜」と声をかけられたりすると、恥ずかしいのですが、やはり嬉しく思います。着物は父のメッセージだけでなく、思いがけないところでたくさんの幸せをもたらしてくれます。
そんな気持ちをたくさんの方に味わっていただけたらと、ときどき、着物に興味のある友人や知人と我が家で練習会をしているんです。ご自身で着物が着られるようになって、お出かけを楽しんでもらえるところまでお手伝いできたらと思います」


着物は着るもの。心地よい動きの中に美は宿る

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おか善さんでお求めした紅葉の景色が描かれた染め帯。「こうして季節を纏うことは着物の楽しさだと思います」

かおりさんの着物は、小紋や色無地、付け下げなどやわらかものばかりだそうです。

「動きから生まれる優雅な絹の表情がとても好きなので、やわらかものばかり着ています。でも最近、大島紬を着て家で過ごしてみたいという想いもあるんです。困っちゃいますね(笑)。

補正はあまりしません。私の体型ですと、胸元の補正が必要かもしれませんが、そのままの姿が私らしいと感じています。それにリラックスして着ると着物はすごく心地がいいんです」

夫との散歩で、友人との旅行で。着物日和を楽しむ

「主人は着物を着ませんが、私が着ているのを見るのが好きなようです。お母様も着物を着る方なので、安心するのかもしれませんね。喜んでもらえるならと、食事へ出かけたり、週末の散歩でも着るようにしています。
また、懇意の呉服屋さんへ行ったり、観光目的で京都へ行く際は必ず着物です。

素敵な着物を見つけると、次はその着物のための帯や小物が欲しくなります。今は、冬用の雨ゴートの生地を探しているところ。どこかにいいものがないかしらと、見つけるまでの過程も楽しいんですよね。学生時代は勉強が忙しく、結婚して子供が生まれてからは、着物を出す余裕なんてありませんでした。

時を経て、最近ようやく着物日和が訪れたなということで「よし、いまだ」と思って楽しんでいます」

穏やかな眼差しと、優雅な所作が美しい、着物を愛するたおやかなかおりさん。次回のサロンコンサートでは着物を着て演奏をしようと計画中です。彼女の着物日和を通し、日本と西洋の古典がいま、繋がろうとしています。

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小林かおりさん(音楽家)
着物歴:50年
公式サイト「平 かおり」 Instagram:@kobayashi_050200




「着物リアルクローズ」取材時の交通費などに充てさせていただきたいと思います。もしご興味を持っていただき、サポートしていただけたらうれしいです。どうぞ宜しくお願い申し上げます。