くじら
むかしむかし、クジラの絵を描いた。
二匹のクジラが、小魚の群れを追いかけてる絵。
中学の美術部で、海の絵コンクールに出したもの。
クジラの写真を見ながら、絵の具を重ねた。
重ねれば重ねるほどに、命が吹き込まれていくような、気がした。
真っ白とは言えない大きなお腹。
真っ青とは言えない深い青の背中。
つぶらなひとみ。
あのクジラが好きだった。
だから、クジラばっかり綺麗に描いていた。
そんなだったから、周りの岩や小魚は、なんともチープな雰囲気になってしまった。
けれど結局、その作品は賞をとったし、いろんな人に褒めてもらえた。
今になって、もう一度あのクジラの絵を見てみて、思った。
クジラだけがリアルで、周りの背景も岩も魚も、作りものみたい。
絵の中に閉じ込められたクジラが、虚構の世界の中で、つまんなそうに泳いでいる。
わたしもこの世界に産み落とされて、虚構だかリアルだかよくわかんないところで生きてる。
周りの岩や魚が作りものでも。
わたしだけがリアルでも、そうじゃなくても。
わたしはわたしのリアルを自分で創るんだ。
そんな気持ちが、むくむくと湧いてきた。
なんだか元気がでてきた。
15歳のわたしがあの時感じていたこと。
21歳のわたしが今感じたこと。
少し重なった気がした。
言葉を綴ることで生きていきたいと思っています。 サポートしていただいた分は、お出かけしたり本を読んで感性を広げるのに使います。 私の言葉が誰かに届きますように。