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映画#9『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』

まさに「狂気的」、ホラーの巨匠サム・ライミとドクターストレンジの奇抜な世界観がベストマッチしていた。

作品情報

タイトル:ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
     (Doctor Strange in the Multiverse of Madness)
監督:サム・ライミ
製作:ケヴィン・ファイギ
製作会社:マーベル・スタジオ
公開日(日本):2022年5月4日
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、エリザベス・オルセン、ベネディクト・ウォン、レイチェル・マクアダムス、ソーチー・ゴメス、他

開かれた「多次元宇宙」への扉、解放された狂気

前作『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』から5ヶ月後の世界の今作。スパイダーマンの頼みにより禁断の魔術を使用したが失敗し、「多次元宇宙(マルチバース)」への扉を開いてしまったストレンジ。そこへ特殊な能力を持つ少女アメリカ・チャベスと、彼女を狙う謎の一つ目のタコのような怪物が現れる。同僚であるウォンと共に怪物を退治したストレンジだが、アメリカはマルチバース間を移動することができる能力を持っていた。怪物に刻まれた紋様に心当たりがあるストレンジは、「スカーレット・ウィッチ」ことワンダ・マキシモフの元へ向かうが…..というあらすじ。

2017年公開『ドクター・ストレンジ』では、かの『インセプション』のようなCGを用いた狂気的とも言える映像表現が特徴的だったが、今作でも遺憾なく発揮されている。さらに言えば今作の舞台は得体の知れない「マルチバース」だ。
特に最初に別の宇宙へ渡った時のシーンは凄まじい。機械の世界、ペンキで構成された世界、アニメーションの世界…..摩訶不思議な世界を何回も渡り絶叫するストレンジ。
ストレンジはこういう目に遭うジンクスが形成されているのだろうか

家族を失った自分と家庭を持つ幸せな自分。
この違いを「不公平だ」と思ったが故の行動だった。

そんな今作の狂気をさらに引き立てているのがワンダだ。『ワンダヴィジョン』での一件を経たワンダは「ダークホールド」という名の禁断の魔術書に魅入られてしまい、夢の中で出会った、かつて自分が思い描いた息子たち(別の宇宙のワンダとその家庭)に会うべく異常なまでの執着心を見せる。
今作のヴィランは紛うことなき彼女だ。

…..『インフィニティ・ウォー』でも『エンドゲーム』でも散々言われてきたことだが、このワンダというキャラクターがとてつもなく強い。なんせあのサノスをほぼ一人で圧倒していたぐらいである。さらに絶望的なことに今作はダークホールドの力により強化されている始末だ。
「カーマ・タージ(ストレンジが魔術を学んだ場所)」では魔術やら洗脳やらで単独で無双し、自分の子供に会うためにはアメリカを殺すことすら厭わない…..まさに「スカーレット・ウィッチ」の名に相応しいと言える。

とはいえこのワンダというキャラクター、シリーズを通して最も報われない登場人物と言っても過言ではない。『インフィニティー・ウォー』では愛人のヴィジョンがサノスの手により殺され、『エンドゲーム』ではサノスの「指パッチン」で消滅した人々が蘇ったが、ヴィジョンの死は指パッチンによるものではないので蘇ることはなかった。そして今作の最終局面では、あれほど自分が追い求めた子供たちに拒絶される始末。最後は全マルチバースの「ダークホールド」を消し去り、塔の瓦礫に潰される….という最期を迎えるが、なんとも報われない終わり方である。どこかで彼女の幸せを祈るばかりである…(一方、塔が崩壊した直後にワンダの魔法の赤い光が一瞬光っていたので、生存の可能性は十分にある。)

MCU初の「ホラー×アドベンチャー」

さて、今作を鑑賞した諸君らは何か感じなかっただろうか。そう、今作のやたらホラーチックな描写だ。かっこよさマシマシに笑いあり涙ありなんでもござれなMCU作品だが、今作もそういうものだと思い鑑賞して度肝を抜かれた人たちも何人かいるだろう。
それもそうだ。何せ監督はあの「サム・ライミ」である。『死霊のはらわた』シリーズでは監督を務め、それ以外の数多くのホラー映画の製作に携わってきた。まさにホラー映画の巨匠ともいうべき存在である。MARVEL作品の監督を務めるのは、トビー・マグワイア主演の『スパイダーマン』シリーズ以来。

洋ホラーらしく脅かし要素が多めな今作。加えて物語の締め方も、どうにもハッピーエンドとは言い難い、釈然としないものとなっている。
ワンダの野望もとい暴走を阻止し、元恋人との気持ちのモヤモヤも晴れたストレンジ。軽やかなBGMと共に外出するストレンジだが、だんだんとBGMに激しさが増していき、道路で苦悶に喘ぎ絶叫するストレンジ。手で抑えるそこには身開かれた「第三の目」が…..という、なんともMCUらしくない終わり方を迎えた。

この第三の目というのは、マルチバース内でストレンジが出会った、「ダークホールド」を酷使したが故に身も心も破滅し闇堕ちしたストレンジ、「シニスター・ストレンジ」が有していたものである。
では、我らがストレンジも同じ道を辿るのではないか…..と思うかもしれないがそんなことはない。原作のコミック版でもしっかりと第三の目は開かれているし、むしろこれによりストレンジはさらなる力を手に入れたことを意味する。

「なんでもアリ」だからこそできるサプライズ

歴代スパイダーマン映画作品のヴィランに加え、トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、そしてトム・ホランド演じるスパイダーマン三人が集結したことで全世界を熱狂の渦に閉じ込めた前作『ノー・ウェイ・ホーム』。マルチバースというもはやチート級な設定が追加されたことにより、どんなキャラクターも「別の宇宙から来た○○○だ」と言えば理に適うようになってしまったMCUだが、今作もそんなサプライズが用意されている。
まずはストレンジが別の宇宙で出会った「イルミナティ」という組織だ。

パトリック・スチュワートはこの役を演じて約22年。歳も80を超えている。
MARVEL作品への出演は2017年の『LOGAN/ローガン』以来となる。

まず何よりも目を引くのが「X-Men」の統率者的存在の「プロフェッサーX」ことチャールズ・エグゼビア。

かつてアメコミヒーローの実写映画化の先駆けとなった『X-Men』。ディズニーが20世紀フォックスを買収したことによりMCUとX-Menのクロスオーバーが可能になったことで話題となったが、これは「MCU版X-Men」の伏線となるのだろうか。
ただし今作はX-Menのリーダーではなくイルミナティのリーダーとして登場する。なので自身をプロフェッサーXではなく、チャールズ・エグゼビアと名乗っている。

ちなみに今作のペギーは『What If…?』で登場したペギーではないらしい。

「キャプテン・アメリカ」ことスティーブ・ロジャースの恋人であるペギー・カーターが超人となった「キャプテン・カーター」も登場。スーツや盾の模様がイギリスの国旗を模しているのに加え、背中にはブースターも搭載している。

元の世界での彼女は、「指パッチン」の五年間の間に病で亡くなってしまったらしい。

MCUの中でも最強格と言われるキャプテン・マーベル。別の宇宙では、キャロル・ダンヴァースの親友マリア・ランボーキャプテン・マーベルとなっていた。
『ワンダヴィジョン』では娘のモニカ・ランボーが登場し、彼女もまたワンダによりスーパーパワーを得ている。原作では二代目キャプテン・マーベルとなるらしい。
『キャプテン・マーベル』の続編『ザ・マーベルズ』ではモニカが登場予定。もしかしたらユニバース繋がりでスーパーヒーロー親子が実現可能となるかもしれない。

演じたのはジョン・クラシンスキー。
「MCU版ファンタスティック・フォー」は既に制作が決定されているので期待大。

チャールズ・エグゼビアの次に衝撃的だったのが「ファンタスティック・フォー」のリーダー「ミスター・ファンタスティック」ことリード・リチャーズだ。
20世紀フォックスを代表するマーベル作品であるX-Menとファンタスティック・フォー。今回のチャールズを含めた二人の出演は、ある意味MCUの実験的な試みと言える。
果たしてMCUは2014年公開の『ファンタスティック・フォー』の汚名を返上することができるだろうか…..

イルミナティの存在しているユニバースで、
ダークホールドを酷使したストレンジを葬ったのも彼。

そして『インヒューマンズ』から「ブラックボルト」の登場だ。『ノー・ウェイ・ホーム』では「デアデビル」がドラマシリーズから登場したが、今作もそのパターン。自身の発する声で相手を一撃で仕留める力はイルミナティ最強と言ってもいいかもしれない。

かもしれない…..が…..

この五人、あっけなく全員ワンダの手によって殺されてしまう。

ブラックボルトは口を封じられ自身の声で自滅。
リードは身体をゴム紐のようにバラバラにされ、
キャプテン・マーベルは瓦礫に押し潰される。
(生きている可能性もあり)
キャプテン・カーターは投げ返されたシールドで身体が真っ二つにされ、
チャールズはワンダの心を救おうとするもダークホールドのワンダに首を折られ死亡してしまう。

せっかく再登場したのにものの10分程度で物語から退場してしまうオチである。
だが全く無意味なサプライズだったとは言い難い。チャールズの再登場により『X-Men』のリブートはより強固なものになり、『ファンタスティック・フォー』への期待も高まった。
これはまさしくMCUの実験的な試みだったのだ。
でもブラックボルトとリードはもう少し見せ場あってもよかったんじゃないかな……..

原作ではストレンジの妻となり、後に「ドクター・ストレンジ」の跡を継ぐ人物。

また毎作恒例のエンドクレジットシーンではクレアが登場。ドルマムゥの娘とされる彼女は、第三の目を開眼させたストレンジと共に再びマルチバースへ旅立っていった。今後のストレンジの行動には目が離せない。

総評

いつもとは違う雰囲気のMCUの作品で本当に飽きない作品だった。新たな力を手にしたストレンジ、ワンダの生死、そして今後も物語の根幹に関わっていくであろうマルチバースの存在。
次の作品は7月の『ソー/ラブ&サンダー』。その前にもディズニープラスにてドラマシリーズ『Ms.マーベル』が配信される。
新たなる扉を開いたMCUの今後に期待していきたい。

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