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YCPコンサルタント通信:異端の経済理論?現代貨幣論を深堀りしてみる

こんにちはYCP人事の岩田です。
年内最後の配信となりましたが皆さんはこの1年をどう振り返っておられますでしょうか?



筆不精の私ですがNoteでブログを執筆し始めて1年が経ちました。
来年は弊社にとって大きな節目になるであろう年を迎えるため、これまで露出を嫌いあまり語ってこなかった経営陣のメッセージも積極的に発信していけたら良いなと思っております。

さて、年内最後のコンサルタント通信はJapanTopであるManaging Partnerの入道の、社内向け隔週報から抜粋してお送りします。
現代貨幣論(※)に関して独自の考察を交えた大変興味深い内容になっておりますのでぜひご覧ください。

※現代貨幣論は中長期的な財政赤字の拡大を容認して政府の円建て債務がどれだけ増大しても信用不安による経済財政の悪化はありえず、財政赤字(通貨発行)の調整による総需要管理を行えば問題がないとするものである

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トヨタ自動車株式会社、UBS証券株式会社、株式会社産業革新機構 出身。

トヨタ自動車では、グローバルCMSの立ち上げや、系列部品メーカーに対する経営支援を経験。UBS証券では、主に自動車・重工業・小売セクター等を担当し、M&A・資金調達案件を担当。産業革新機構においては、主にテクノロジー業界を担当し、ジャパンディスプレイに対する追加投資、JOLED設立並びに投資実行に関与。現在は、M&A戦略の立案、ビジネスDD及び財務アドバイザリー等の案件執行、買収後の統合(PMI)等のプロジェクトに従事すると共に、自己資金による投資業務も担当。


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2020年は新型コロナの影響により経済が大幅に悪化したタイミングでしたが、それに対抗する為、各国は積極的にヘリマネ(ヘリコプターマネー)を投じました。
日本では、全国民に対して一律10万円を支給したり、GoToキャンペーンにより積極的な財政支出を行い、企業に対する無利子融資を実施する金融政策も推進しました。新型コロナという巨大な危機に対して、経済を支えるべしという考え方は概ね国民の総意であるものと思います。
一方で、既に財政赤字が常態化している状況下での大盤振る舞いではあり、今後、大幅な増税が待ち受けているのではと考えている方が多いかと思います。現在、日本政府の負債は約1,400兆円であり、GDPの260%程度に上昇していますが、年間40兆円まで拡大している社会保障費が主な要因であり、一方で公共事業や教育等に対する歳出は過去30年間殆ど変化していません。

こうした状況を受けて、日本は増税等による財政再建を行う必要があり、さもなくば、将来日本国債の金利が急騰し、財政破綻に向かうとの主張があります。これは、経済知識の多寡に関わらず、感覚的に理解が容易な主張です。ですが、危機的と言われる日本国債残高の増加と逆相関で、JGBの利回りは下落を続けており、足元では利回りはほぼゼロまで低下しています。さて、これはどういうことなのでしょうか。

経済をマクロに見る際、経済主体は民間部門、政府部門、海外部門に分けられますが、民間部門収支、政府部門収支及び海外部門収支(経常赤字)を合計するとゼロになるという、ある意味当たり前の事実があります。日本の場合、ここら辺は日本人が大きくバイアスを持っていますが、名目GDPが550兆円強のところ、経常収支は20兆円程度の黒字であり、日本は製造業を基礎とした輸出大国ではもはやありません。という状況を踏まえて、海外部門収支を簡便化の為ゼロとすると、民間部門と政府部門の収支を合計するとゼロになるとの結論が出ます。
この結論が持つ意味は極めてシンプルで、家計及び企業の収支が黒であることが、財政赤字の正体であり、ストックベースでも同様の結論が得られます。つまり、将来的に日本国民の貯蓄でJGBは返済できなくなるとの主張は良く知られていますが、政府債務は民間貯蓄の裏返しであるため、そのようなことは起き得ないということが分かっており、つまりは国と民間の富の分配の議論でしかないということになります。


次に進みます。現在、商品貨幣論が主流となっており、私が大学生の頃も同じ内容を学びました。商品貨幣論は、通貨は商品との交換媒体であるとの考え方に基づいていますが、より重要なのは、銀行は預金者からの預金により貸付行為を行うという点で、これも我々が理解しやすい考え方です。
一方、信用貨幣論という考え方があり、こちらは通貨とは信用取引を成立させる債務証書であり、不換紙幣である債務証書が成立するのは、国家が自らに対する支払い手段(税金等)としてその通貨を受取ることに起因すると説明します。また、通貨は信用取引により創造されているというのは、銀行は預金を本源的預金として貸付を行っているのではなく、無の状態から貸付金を創出する為、債務証書(預金)を創造しているという整理を行います。
尚この場合に、実際に預金が引き出される場合は、必要資金を事後的に調達すれば足ることになります。この信用貨幣論は、中央銀行から支持されている正当性のある考え方ですが、ポストケインジアンの流れをくむ現代貨幣理論が、同様の考え方を強く支持しています(但し、中央銀行が現代貨幣理論全体を支持している訳ではありません。)。
この信用貨幣論の帰結はかなり衝撃的なもので、税金は資金調達として必要ではなく、あくまで国定通貨を信任させるための手段のため、課税は本来は不要であり、国債による資金調達も不要との結論を出しています。但し、この現代貨幣理論の財政面に関する主張は、著名な経済学者からいかがわしいとの評価を得るに留まっています。

日本経済は財政悪化による社会保障制度の持続性や増税による懸念から、消費や投資が喚起されず長期間に亘ってデフレが継続しています。
この状況を踏まえ、日本の企業は挑戦する心を忘れた愚か者であり、資産課税を導入すべきと、という主張がなされることがあります。私自身、UBS在籍時に同様の主張をストラテジストから聞くことがあり、資産課税の有効性を感じたこともあります。また、資産課税については個人資産についても議論されることがあります。しかし、UBS時代の自身を恥じていますが、最大の問題はデフレであり、デフレで資金をため込む行動は極めて合理的です。

従って、我々はやるべきはデフレの解消なのですが、足元では消費税引き上げ等デフレをより喚起する政策が打たれています。日本の社会保障制度は、日本のGDPがベトナム位の規模感の際に成立された制度だそうですが、誰もが医療にアクセスできる世界に誇るべき制度だと思います。であるからこそ制度維持は難しい。今回は現代貨幣論の話を持ち出しましたが、同理論は、財政赤字は民間部門の黒字の裏返しであり、政府は貨幣創造が可能な以上、政府の負債と民間の負債は根本的に考え方が異なり、政府の方が負債の継続性は担保できる為(民間には負債金額に限度がある。)、政府が負債を持つことに問題はなく、留意すべきはインフレ率のみであると主張します。
そして、インフレ率が高まる場合には、増税や日銀による国債の買いオペの実施をすれば、インフレは抑制可能と続けます。日本は変動為替制を導入しており主権通貨国です。実は歴史的に主権通貨国が金利が上昇し財政破綻をした例は存在しません。EU各国には通貨発行権がありませんので、ギリシャの財政破綻は全く別ですし、財政健全化を果たす過程で破綻しています。また、新興国を中心とした自国通貨をドルと連動させている通貨国も、主権通貨国とは言えません。

現代貨幣論はまだまだ傍流の理論であり、私自身不明な部分がありますが、個人的に興味を持ったこと、また、我々の国を考えるきっかけになればと思いこの貨幣論を紹介しました。中央銀行が既に説明している通り、どれだけ巨額の資金を日銀当座に投入しても、資金の使い手がいない以上インフレにはなりえない事実を踏まえ、黒田総裁等が主導したリフレ派一本足の考え方から脱却すべきこと、我々は認識すべきかと思います。

END

衝撃的な理論故に肯定派・否定派と意見が大きく分かれていますが、何が正しく何が間違っているかは誰もわかりません。ただ改めて私たち一人ひとりが興味を持ち、常に考え続けることが必要なのだと思います。そんなきっかけになれたのであれば幸甚です。

来年もどうぞよろしくお願い致します!


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