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Wさん家の町内会費 (不思議な話)

とうとう我が家にも町内会の当番が回ってきた。

担当範囲は10軒。
自宅+両隣と、徒歩2分くらいの場所にある区画の7軒だ。
最近引っ越してきたので、両隣以外はどんな人が住んでいるか全く知らない。

当番の任期は1年で、その中で最も大きな仕事が町内会費の集金。
というかウイルスの影響もあって、当番の仕事はほとんどこれだけなのが救いだ。

集金をできるだけスムーズにしようと思い、

・自分が今年度担当になった挨拶
・4月●日の9時~10時に町内会費の集金に伺います
・ご都合の悪い方がいましたら連絡ください(私の携帯電話を記載)

を記した紙を集金日の1週間前に担当する家のポストに投函することにした。
特に自宅から離れた7軒は漏れのないように確認。

そして当日、順調に集金は進んでいった。
事前に投函した紙を見てくれていたのか、封筒にあらかじめお釣りがないようにぴったり用意してくれた家も多く、ありがたい気持ちになる。

そしてWさんの家を訪問した。
先週紙を投函したときは門が閉じられていて不在だったので、今日も居なかったら困るなと思っていたのだが、門は開いており在宅のようだった。

敷地内に入り、呼び鈴を鳴らすと、しばらく間があっておじさんが出てきた。
町内会費を集めに来た旨を話すと「いくらだっけ?」と聞かれ金額を伝えていると、後ろからおばさんが出てきた。おばさんが財布からお金を取り出して会費を渡してくれた。
お礼を述べ、受け取った証にWさん宛の領収証を置いて帰宅。

こうして驚くほどあっさりと集金が完了した。
担当している全世帯から滞りなく町内会費を集めることができた私は上機嫌だった。

その日の午後。
床屋の待合室で順番を待っていると、電話が鳴った。
登録されていない携帯からの着信。

電話の主は声の様子からして高齢男性のようだ。
Wと名乗った男性は、いきなり『ごめんな』と詫びてきた。
10秒足らずに間に頭の中が?でいっぱいになった私に男性は

W男「午前中、家にいなくてごめんな。午前中は病院行っててよ、今日集金に来るのすっかり忘れてたんだよ。」

ますます?が積み重なる。
だってつい数時間前、Wさんの家にお邪魔して町内会費をもらったばかりなのに、この人は何を言っているんだろうか?

私「え?約束の時間にWさんのお宅にはお邪魔しましたよ。ええと確認なんですが(必死に住宅地図と思い出す)、角にあるSさんの隣のお宅ですよね?」
W男「そうだよSさんの隣」
私「今は家ではありませんので100%確実なことは言えないのですが、私が時間通りに訪問してWさんのお宅から町内会費をいただきまして、領収書も家の方にお渡ししましたよ」
W男「本当かい?」
私「間違いないと思います」
W男「それじゃあ近所に確認してみるわ」
私「は、はい。また何かありましたら連絡ください」

電話を切った自分は、『もしかしてWさんへの集金をしていなかった?』と思ってしまった。
出先だったので、慌てて家にいる妻に連絡をしてお金の確認をしてもらう。
床屋の順番になったが、Wさんからの意味不明な電話に混乱しっぱなしだった。

散髪を終えると妻からLINEが届いていて、ウチも含めた10軒分の町内会費は問題なく集金がされていた。
それなら、さっきの電話は何だったのだろうか?

床屋から帰宅しておよそ2時間後。
ソファでゴロゴロしていると、再び電話が鳴った。
登録されていない番号だが、家電からだった。
電話に出ると相手は女性。今度も『ごめんなさい』といきなり詫びてきた。
恐る恐る名前を尋ねると、果たしてWと名乗った。

W女「あのー、今家にいますか?」
私「はい、おります」
W女「これから町内会費を持っていきたいのですが●●円」
私「え?あの、もうWさんのお宅からは頂戴したのですが」
W女「そうなんですか?」
私「午前中に集金をさせていただきました。」
W女「そうなんですね、持っていかなくて大丈夫でしょうか?」
私「間違いなく集金済みです。あと先ほどWさんを名乗る男性から電話がありまして、その方も町内会費を納めたいという内容の電話だったのですが」
W女「あれはおかしいので」
私「え?午前中病院に行ってたので町内会費を納めたいと仰っていたのですが」
W女「あれはおかしくなっているので」
私「はぁ、あの、家の方お支払いいただいて領収証も置かせていただいたのですが。ご覧になってませんか?」
W女「知らないんですけど本当に●●円払わなくても大丈夫ですか?」
私「大丈夫ですよ。もしまたわからないことがありましたら、遠慮なく電話くださいね」

電話を切った私はソファで頭を抱えた。
なんだなんだ?ほとんど全部おかしい。

なぜ集金がしっかり終わっているのに、Wさんを名乗る2人の男女から別々の電話番号で連絡が来るのか?
しかも二人とも払っていないという認識で謝罪の電話だったのか?
そもそも自分が午前中にお金を受け取った夫婦と思われるおじさんとおばさんはいったい誰なのか?

ちょうどリビングにやってきた妻に一部始終を話すと、「お隣さんから聞いたんだけど、Wさんの家って奥さんに先立たれて今おじさん1人だけで暮らしているみたいよ」と不思議そうに言った。

怖い怖い怖い。

「Wさん家に確認しに行ったら?」と妻が言うが、私はこんな不気味な話にこれ以上深入りする気にもなれない。

どこの誰かは知らないが、しっかりWさん家分の町内会費は払ってくれたのだ。
このままいけば再び当番が回ってくる10年先までかかわることがないので、あとは時間が解決してくれるだろう。

それから町内会費がらみの着信は二度となく、W女さんが電話口で述べていた●●円は正しい町内会費の額だったことも申し添えておく。