治安の話


僕がよく行く界隈のライブでは『治安』という言葉をよく耳にする。


・治安
---世の中が治まって安らかなこと。社会の秩序・安寧が保たれていること。
(大辞泉より)

今日は治安が良かった、悪かったという話題は終演後の一つの話のタネになる。



でもこの『治安』、ライブによってそれを指す環境が違う。



例えば、ナードマグネットやTENDOUJI、あとはクリトリック・リスあたりのライブでは酔っ払い率、それもわりとベロベロになってる客が騒いでると「今日のフロアは治安ヤバかったなー」なんて感想が出る。でも客の多くはそういった環境が慣れっこみたいなところがあって、酔っ払いのおっさん達が泣きながら肩組んでシンガロングしている光景(一部ではおじ溜まりと呼ばれる)に愛おしさすら覚える。

まぁクリトリック・リスのライブには常識という言葉が通用しないので、サーキットイベントなんかでクリトリック・リスの次のアーティスト目当てに最善を確保している女の子が絶句していることがよくある。



その一方で、「キッズ」と呼ばれる客が多いライブで使われる『治安』はどうだろう。
そもそも「キッズ」とは主にメロコア、パンクの界隈で昔から用いられていた言葉で、そういったジャンルを好む人たち、特に若年層を指す。とはいえ、出世魚のように年代によって呼び分けられてはいない。キッズを卒業したからメロコアアダルト、パンクオールドとは呼ばれないし破滅的にダサい。

キッズの外見的特徴として、ディッキーズのハーフパンツや蛍光色のシャツを身に着けて、ラバーバンドを大量にバッグ装着しているので良くも悪くも目につきやすい。


この「キッズ」、最近はネガティヴな意味で用いられていることが増えてきた。

その理由は『治安』をしばしば乱す存在だからに他ならない。

キッズが好むバンドのライブを見れば明らかなのだけれど、ダイブ、リフト、サークルがむちゃくちゃに乱発している。あれはただの暴動とも言える。


断っておくが、僕自身10年前はバリバリのメロコアキッズだったし、ダイブやモッシュがある現場で育ってきた。だからそういった文化を否定するつもりはさらさらない。

が、今の若者に人気のバンドのライブ、危なすぎませんか?

自分が飛べればいいというダイバーだらけで、運んでもらっている間手足をバタバタとさせて自ら転がろうともせず、あまつさえステージやフロアを煽ろうとポーズをとる。
そしてサビ前には待ってましたと言わんばかりにぞろぞろとリフトが乱立して壁になる。ウォールマリアかお前らは。

ライブに何を求めるかは人それぞれで、ただ暴れたい人もいればじっくり音を聞きたい人もいるし、メンバーに少しでも近づきたい人もいる。特に今時のバンドは顔面偏差値が高め、まぁ顔面がいいからファンが増えているのかもしれないけど、そんなことで女の子が前の方に集まりがちだ。そこに大量のダイバーが降ってくるのだからたまったもんじゃない。


当然支えきれるわけもなくそこらじゅうで落下事故が起こる。それでもバタ足ダイバーは矢継ぎ早に降ってくるし、顔を蹴られるなどのトラブルに繋がる。


そういったトラブルはすぐにSNSで拡散されて炎上する。拡散されることであのバンドは治安が悪い、これだからキッズは…なんて論調が生まれる。

で、キッズ側からは「もみくちゃになるのが嫌なら後ろで見ればいいじゃん」って反発的な意見が出る。

かくして、モッシュダイブ論争が生命の誕生から今日まで延々と続いているのである。


フェス文化には功罪があって、音楽を聴く人、ライブハウスに足を運ぶ人を増やした反面、フェスでのノリをそのままライブハウスに持ち込まれるようになったと思っている。


よくバンドが「ライブハウスは俺らのもんだ!好きなように遊んでくれ!」みたいに煽ることがあるけど、これは自分勝手にやってってことではない。ライブの治安は最低限のモラルやマナーの上で成り立っている。


ダイブやモッシュは建前上は禁止されている行為だ。今は黙認されていてもなんらかの事故が起これば完全に禁止される可能性は十分にある。ロッキン系をはじめダイブしたら退場、なんて厳しい姿勢を見せているイベントもあるし。


楽しみ方が制限されるライブは悲しい。ライブハウスは自由であってほしい。そのためには自らの身のふりを省みてもいいんじゃないかな。


「ダイブやモッシュは衝動だ。
この曲で絶対飛ぶとか、今日は何回飛ぶとか決めてやるもんじゃない。
それは偽りの衝動だ。」

みたいなことを誰かバシッと言ってくれねぇかなマジで。
まぁそう諫めること自体ロックじゃねぇな。


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