書籍を編むということ

本日発売の『親子で山さんぽ』(交通新聞社)は、人生で初めて手がけた書籍となった。かつて所属していた会社でも書籍の提案は何本も出したが、いずれもボツとなった苦い思い出があるが、今回は担当編集の力添えにより、実現にこぎ着けることができた。担当編集さまさまである。

およそ仕事とはどれも共通していると思うが、ひとりではできない。今にして思えば、かつて所属していた会社では、他人の協力をうまく得ることなく進めてしまったのが実現できなかった大きな要因ではなかろうか。自分だけ突っ走っても、回りがついてこなければうまく事は進まないのである。

では、今回の企画は実際どうだったのか。担当編集さんの思惑はともあれ、個人的に突っ走った面は多々あったと思う。その点でいえば、迷惑をかけたことだろう。反省点である。一方で、突っ走ったこと自体を改めて考えてみると、とくに内容に関していうと、思った以上にオリジナルな情報というのがないことに愕然とした。

新しい形の〝親子登山本〟をめざした割に、目新しいことといえば、巻頭に絵本を入れたり、山登りを数値化してみたりした程度のこと。内容的にいってもそもそも山自体は変わらぬものだし、紹介している山登りの技術的なものもこれまで先人が培ったものをテーマにあわせてアレンジした程度といえる。無理矢理、これがオリジナルだと言い張れるものだいえば、山に登るということは街中の並木道で自然を感じることと同じだというくらいで、その点では目新しさなど一切ない。

果たして、それでいいのだろうか。制作中、何度も思ったが、それでいいのだ、とその都度思い直した。世の中にあふれている情報のほとんどは過去の英知の焼き直しだったり、組合せだったり。今回の書籍に限っても、先人が作り上げたものを参考にし、新しい一冊を編んだだけだが、あるいはこの一冊は次の一冊の礎になるのかもしれない。けれど、書籍というものは、これまでもそうやって紡ぎ上げられてきたのではないか。

そんなことを考えていたら、論文もまた、同じ構造だと気がついた。そのひとつの知見は小さなものだけれど、ひとつの知見が組合わさり、大きな発見へと結びついてゆく。もちろん、論文でいう発見とは異なるが、今回『親子で山さんぽ』で見つけたことは、〝山なんて並木道と同じさ〟という視点である。もちろん、両者には本質的な違いがあり、その違いを埋めるために148pを費やしたともいえるかもしれない。

大きな観点からいえば、今回の書籍が実現したのは多くの協力者のほか、先達たちが残した卓越した知見である。小さな観点からいえば、著者として伝えたかったメッセージは「ふだんの道から山道へ」である。こんな気づきを得ただけでも、書籍を手がけたかいがあるといえるだろう。

雑誌もおもしろいが、書籍はまた違う楽しみがある。あれだけ苦しんだ書籍作りだったが、早くも次なる書籍のアイデアが湧いてきている。それを実現するためにも、まずはこの一冊が売れることが必須である。あるいはそれこそが、著者ができる唯一の〝オリジナル〟な作業なのかもしれない。

◇親子で山さんぽ
https://shop.kotsu.co.jp/shopdetail/000000002761/

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