書店営業で考えた

初の著作『親子で山さんぽ』は関東を中心に配本されているため、地方書店には当然ながら店頭に並ぶことはない。ひとにもよるが、地方ではまだネットで本を買うことは少なく、せっかく宣伝しても、本屋にないと買えないと言われてしまうので、自主的に地元書店に営業をしてみた。近辺には蔦屋のほか、個人書店が2軒あるのみなので、半日かけてゆっくり営業。「一冊買うから、数冊書店に入れてPRしてくれ」というゴリ押し営業である。

おもしろかったのは、大型書店(蔦屋)と個人書店のちがいである。大型書店では客注書類は注文者が書き、個人書店は店主が書いてくれた。続いてPRについてだが、大型書店では上司の判断を仰ぎますとの一言だったが、個人商店では応援します! のひとことで即決してくれた。

この一件で大型書店がよい、個人書店がよい、というつもりはない。けれど、個人商店の方が「地元のひとが」「地元の山を紹介している」という2点が効いたように感じた。大型書店ではもっとメジャーな本をたくさん棚に置き、販売金額を上げたいのかもしれない。一方で、個人書店は店主の気持ちひとつで棚を作ってくれる傾向があるのかもしれない。

とある個人書店の店主の言葉が印象に残っている。

「このあたりでも、昔は小学館や集英社、講談社の営業のひともよく来ていたのですが、最近は経費削減とやらでまったく来なくなりましたね。営業部ですらそんな感じですから著者自らが来店されることなんてほぼないし、今回のように自著のよさを自ら話してくれるとなるとこちらも力が入ります。この本は地元の低山がきちんと紹介されてありますし、ぜひPRさせてください。販売量は少ないですが、夏前にはこんな小さな書店でも山関係の書籍は動きがあるんですよね」

かつて所属した出版社では、雑誌の売上げが落ち込んだ時、編集部自ら書店に出向き、ポップを置いてもらったり、販売促進になるよう書店員に話しを聞いたものだが、全国的に書店数が減少している昨今では、こうした泥臭い営業は好まれないのかもしれない。その背景には、Amazonなどのネット通販が書籍販売の主体となっていることがあるのかもしれない。

たしかに、地方の一書店の売上げなど、微々たるものだろう。そしてまた、実際のところAmazonなどで購入する機会も多いことだろう。けれど、こうした小さな営業こそが、じつは次なる書籍制作のヒントにもなっていることに気がついた。

まずは、版元営業部だけでなく、著者自らが自著をPRする機会が少ないということである。とくに今回の書籍のような場合、無名の新人(おっさんだけど…)のしかも山がテーマの本を都心の大型書店でPRする予算などとうてい組めるわけがない。であれば、著者自らがポップを手作りし、都内の書店巡りをすれば、それなりの効果があるのではないか。

次に、地方の山はあまり誌面で紹介されていない、という事実である。これは版元にとっては広告の関係もあり当然のことでもあるが、だからこそ、そこに商機があるともいえる。雑誌と異なり、小回りの効く書籍では地方の山を積極的に紹介することはひとつの可能性として考えてもよいのかもしれない。

3つ目に、売上げ自体は低くても、地方においても山岳関連書籍はそれなりに動くということである。どの程度の読者がいるかは不明だが、やりたくてもやれない、わからないという潜在的登山者は都会よりも地方の方が多いのではないか。というのは、日々すばらしい景観を眺められる環境にいると、その幸せをその地で生きているひとほど実感できない現状があるからである。

じつは、こうした観点はすでに『山歩みち』で経験し、それを踏まえて今回の営業に向かったのだが、改めて書店員に話しを聞くことができ、自信が深まったような気がしている。ビジネスという観点でいえば、ネット販売や電子書籍を検討することは必須だと思うが、一方で、こうした<泥臭い営業>も時に発見があるものだし、たまにはやってみてもいいのかな、と思った。

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