珈琲に合うお酒を知らないまま生きてきた
別にお勉強が出来なかったわけでもないけど、私はかなり無知な方だと思う。
幼い頃は知的好奇心が旺盛なおてんば娘で、あれこれ興味を持っては中途半端に色々とやってきた。
ピアノはちっとも弾けないのに10年も習ったし、テニスは某王子様漫画に嵌ってから2回くらいちびっ子レッスンに通った。
バンドに嵌ってはギターを買い、美に目覚めては化粧品を買い漁って肌を荒らした。
海外に興味を持ってからは英語、フランス語、韓国語、中国語となんとなくお洒落そうな外国語に手を出してみた。
まあ、どれも自己紹介止まりだけど。
ただそういった奇行は、二十歳を超えてからパタリとなくなった。なんだか急激に物事に対して関心がなくなって行ったような気もする。
いや、もっと後かな。思えば社会人になってからかもしれない。
多分きっかけは大学4年の夏から始めた就職活動。
ろくにやらなかった。
働きたくなかったから。
1社だけ受けて、受かったからそれで終わり。
仕事内容はどうでもよくてとにかく休みが多い会社を選んだ。給料も、勤務地も、労働形態も大して見なかった。
そんなことだから、当然失敗するんだけど。
仕事は特段面白くはない。
面白くしようと思って専門知識を増やそうと勉強してみたこともあったけど、やっぱり興味が持てなくて参考書は半分も読まずに放り投げた。
でも、面白くないからと言って簡単に辞めてしまえるほど、金銭的な余裕はない。
働かなければ食べていけないのだ。
明日食べるものに困るほどではないけど、贅沢三昧出来るほど稼いでいるわけではない。
地方で、一人暮らしで、23歳で、会社員で、女である私に金はない。悲しいかなこれが現実である。
興味とか、楽しいとか、そういうのだけを求めて生きていけるほど私に余裕はない。自由もない。
藤森かよこ女史の「馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください」という強烈なタイトルの著書を知っているだろうか。
もし知らないのであれば、そしてあなたが私と同じ馬鹿でブスで貧乏ならば一読してほしい。
馬鹿はモノを知らないから知っている人よりも多くの損をするし、ブスは美人よりも人との出会いを減らす。貧乏は、死ぬ。
私は、自分が馬鹿でブスで貧乏だと気づいたのが遅かった。それまで全肯定で育ててくれた両親に感謝したい。ありがとう。
でも、もう知ってしまった。
私は画面の中にいるあの子よりブスであり、地元に残った友人よりも貧乏なのだ。ならば知識を増やそうか、ともがいてみても上手くいかない。
馬鹿だから何を勉強したらいいかが分からない。だから馬鹿なのだと思う。
そんな時、仕事先で知り合ったおじさんに、ママのいる地元のディープなスナックに連れて行ってもらった。
もちろん、私にとって人生初のスナックだった。
元々お酒は嗜む程度ではあったけど、そんな空間で飲んだことなどなくドキドキしながらママにおすすめを聞いた。
お酒は強いのか、普段は何を飲むのか、そんな簡単な問いにひとこと二言答えると、ママは瓶に入った黒い液体をまあるい氷の入ったグラスに注いだ。
ウイスキーを珈琲で割る「ウイスキー珈琲」だった。
ロックかハイボールでしか飲んだことのなかったウイスキーを、毎日職場で飲むあの苦い珈琲と割るなんて、と恐る恐る飲んでみたらこれがまあ美味しい。
味はウイスキーと珈琲を同時に飲んでるという感じだったが(こういう時ボキャブラリーのなさに絶望する)飲みやすく、2、3杯は飲んだ気がする。
悪酔いするからもうダメよ、なんて言われて強制的に終わらせられるまでママと、おじさんと色んな話をした。
会話の中身は多分そんなになかったけど、知らなかった世界の端っこを覗かせてもらったみたいで楽しかった。
私は馬鹿でブスで貧乏だから玉の輿には乗れないし、しばらくは興味のないこの仕事を続けなければいけないだろうけど、少しだけ視界が開けたような、そんな夜だった。
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