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何度捨てても巡り合う本

因縁の本がある。
小川未明童話集。

高校生の時、地元の書店で買ったけど全然ピンと来なくて早々に処分した。
大学生の時、新宿紀伊国屋で「書籍にカバーをかけて一切の情報なしに、書店員の感想だけで選ぶ」という、当時の私にはとても新鮮な企画があったので、そのためだけに東京へ一人旅した。
そこで選んだなかに、なんとこの本が含まれていた。
ゲッと思いながら読み直してみてもやっぱり全然ピンとこなかった。

それから数年経って、現在。
朗読教室に通い始めた。

そこで渡された課題が、数ある中からまさかの小川未明童話集。

なんやねん…なんやねんもう…!

ウゲゲッと思ったけど、先生にそんなこと訴えても仕方ない。
短編のひとつ、「飴チョコの天使」を改めて読んでみる。


***

小さな箱に入った飴チョコ。
そこに絵描かれたかわいらしい天使。
どこでどんな運命を辿るだろうか、と天使たちは不安だったりわくわくしたり。
1年、田舎の菓子屋で退屈に過ごしたあと、おばあさんに買われ、孫たちに贈る小包の中に入れられ、生まれ故郷の東京に帰る。

子どもらに喜ばれ、飴チョコは空き箱になった。
空き箱になった以上、描かれた天使たちは打ち捨てられる運命だったけれど、なつかしい故郷の景色を目にしながら、天へ昇っていく。

***

人生みたい。
未来に思いを馳せ、最後は自分の姿も精神も失うのはわかっちゃいるけど
心穏やかにいろんな景色を思い浮かべながら消えていきたいなって思う。

飴チョコの天使たちは工場で生まれ、思いがけず田舎へ行き、どうにもならない環境でただ時間をすごした。別れもあったけど、連れ合いもいる。
転機は自ずとやってきて、また先の地へ行くことになり、そこで終わりを迎える。

中身の飴チョコと違って、ただ飾り箱に描かれただけの天使の、なけなしの希望が最後にかなう。
自分の生まれ故郷を振り返りながら、天に昇ってゆくときに
都会の一年がいかに早く移り変わってしまうのか伝わってくる描写がある。
見た目には変わってしまったけど生まれ故郷に変わりない。

わたしは現に、飴チョコの天使なような気持ちでいる。
自分で運命をコントロールしたいとも思わずに、行くに身を任せている。

大阪から東京に来て、とても大阪が恋しい。
東京が嫌いというわけではもちろんないし、どうということもない。
この先大阪に戻ることがあれば、この東京の景色すら恋しく思う日がくるかもしれない。
ただ人生が流れていくに身を預けているので、懐かしいと思う場所が都度違ったりする。

***

本は読むタイミングが大切とは言うけど、
私にとって半生タイミングを逃し続けてきた作品。
3回も巡り合えばさすがに「オッ」と思う部分もあるらしい。

こちらのタイミングを窺っている本が他にもあるかもしれない。
もしかしたらこれから後に、そういう本があらわれるかも。
今読書をしておくことが後に喜びを連れてくる可能性を高める。
種をまくつもりで、もう少しいろんな本に手を伸ばさなきゃいけないな。

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