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下流にいる息子

下流の宴 林真理子

私は主人公由美子と同じだ。
息子に良かれと思って様々なことをやってきた。


劇団四季も見せたし
科学館には毎週のように通ったし
プラネタリウムも
工作教室も
絵画教室も
もちろん歯の矯正もお金と時間をかけた。
家庭教師もつけて
中学受験も考えた。
息子のためを思って、息子の前に転がる石は丁寧に退けてきた。


なのに、Fランク大学をギリギリで卒業。
しかも就職が決まらず。
家でゴロゴロ…。
なんなの?
私のお金と時間は?
私は出世を捨てて息子を育てたのに。
結果がこれ?

息子はいずれ結婚したいと女性を連れてくるだろう。
とてもまともな女性を連れてくるとは思えない。
そう、由美子の息子翔が連れてきた珠緒のように。
しかし珠緒は、かつて医者の娘だった由美子から、下品だのうちとは違うだの言われて、そんなに医者が偉いなら私が医者になる、とたんかをきる。

できるもんならやってみたらと笑われるが、2年後猛勉強の末、国立大学の医学部に合格する。
だが、翔は努力をする珠緒がうっとうしい。
結局別れ、またバイトの日々。
たぶん10年後も同じようにバイトをしているであろう翔と、子供を連れて実家に出戻りの娘可奈と子どもとで、由美子がバカにしていた下流の生活を送ることになる。

私には娘はいないが、このままでいくと、私の家も同じようなことが起きそうだ。
バカにされた人が上に行ってしまい、バカにした自分が下流に落ちる。

小説は言いようのないモヤモヤ感を私に与える。
心に封じていた闇がえぐり出されるような。

その昔お見合いをしたことを思い出した。
パッとしない釣書と容貌に、断りの電話を叔母にしたところ
「大卒で、正社員で、何の不満があるのか。あなたは何様か。」
と、えらく怒られた。
そうなんだ、私にはこれくらいなのか。
わたしとつりあう人はこの人か。
釣書ってなんか面白い記号だ。
もはや人に頼んでお見合いをお願いするのは辞め、仕事に邁進することにしたら今の夫と出会った。
不思議なものである。

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