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ドイツ・シュレースヴィヒ-ホルシュタイン州議会選挙: CDUが大勝、緑の党も躍進、SPDは大幅に議席減へ。

 5月8日に行われたドイツ最北部、デンマークと国境を接するシュレースヴィヒ-ホルシュタイン州の州議会選挙は、日付が変わる午前零時の段階のドイツ公共放送ARD/ZDF開票速票によると、キリスト教民主同盟(CDU)が2017年に行われた前回選挙時の得票率から11.4%伸ばし43.4%の記録的な得票率で第1党の座を維持、それに対して、社会民主党(SPD)が前回比11.3%落とし26%の得票率で第2党の座から滑り落ちた。また、ドイツ連邦レベルにおいて、SPDと組んで連立政権入りしている緑の党は、今回の州議会選挙では前回から得票率を5.4%伸ばし18.3%とし、第2党の座へ躍進した。しかし、同様に連邦レベルで連立政権入りしている独自由民主党(FDP)は、得票率を前回から5.1%落とし、6.4%と振るわなかった。

 今回のシュレースヴィヒ-ホルシュタイン州の州議会選挙の結果は、なによりもロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響が非常に大きく影を落としているといえるだろう。現時点ではかなり変化してきたとはいえるものの、ヨーロッパ全体の連帯を纏めなければならない主導的立場にあるドイツが、ウクライナへの積極的な武器の供給支援あるいはロシアからのエネルギー依存脱却という重要な局面において、消極的で重い腰であった印象はぬぐえず、ヨーロッパ内で自国が批判に晒されるという事態への有権者のフラストレーションの矛先が、ドイツ連立政権を率いるショルツ首相のSPDへの批判となって現れたとみるべきだろう。

 それに対して、SPDと同様に連邦での連立政権入りしている緑の党は、ウクライナ情勢に対する変わり身が非常に速かった分、有権者の目にはネガティブには映らなかったといえる。そもそも、ドイツ連邦での連立政権内でウクライナへの武器供与に対し当初最も消極的で、ヘルメット5000個と野戦病院用ベットの供与に限定した対応へ誘導したのが緑の党であった。ドイツ国民の世論も当初は武器供与には非常に消極的で、緑の党の姿勢も世論を反映したものに他ならなかった。2月末にロシア軍がウクライナで非戦闘員を標的とした無差別攻撃を行っている実態が明らかになり世論が急激に変わり始めると、対戦車ミサイルや対空ミサイルをはじめとする武器供与の開始への舵取りを行い、そして現在では、当初武器供与すべきではないという立場を主導した緑の党の最重鎮政治家ユルゲン・トリッティン氏が、その論調を真逆にし、もっと武器供与支援ができたはずだ、できなかったのはショルツ首相の判断があまりに慎重すぎたせいだ、ウクライナが早く戦いを終わらせられるためにも積極的に武器供与をすべきだと、当初とは真逆の姿勢へと変身を遂げている。

 世論の変化に敏感に応じ、速い動きを見せた緑の党に対し、SPDは元首相ゲアハルト・シュレーダー氏をはじめとする党内の対露融和主義者との調整に手間取り、有権者の目には、ショルツ首相が何をしているのか見えなくなっていた。こうした、SPDに対する失望感が、今回の投票結果にあらわれているとみてよい。また、同様に連邦の連立政権入りしているFDPも、その産業界寄りの立場から積極的な反露の姿勢を見せることはできず、有権者からはネガティブにみられているといえるだろう。それに対して、漁夫の利を得たのがCDUである。現在のCDUは、昨年の連邦議会選挙での敗北の後の体制再建途上にあるが、新たな党の顔としてメルケル氏の長年の宿敵であったベテラン政治家メルツ氏を選び、急速に旧来のメルケル氏の党のイメージから脱却しつつある。こうした連邦政界で起きている出来事も、今回の州議会選挙に影響しているとみるべきだろう。

 シュレースヴィヒ-ホルシュタイン州内でCDUを率いるダニエル・ギュンター氏(現州首相)は、これまでCDU・緑の党・FDPの3党の州連立政権を束ねてきたその政治手腕に定評があり、仮にウクライナ情勢や連邦政界での出来事といった要因がなかったとしても、今回の州議会選挙で氏が率いるCDUは第1党の座を維持したであろうことは想像に難くない。ただ、伝統的にCDUとSPDの間で良いバランスが取れてきていたシュレースヴィヒ-ホルシュタイン州において、今回の様にCDUが突出しSPDが急落するという事態は初めてであり、ウクライナ情勢を中心とする連邦レベルの情勢が今回は色濃く反映したといえる。本来、ドイツの州議会選挙においては、有権者は連邦レベルとは切り離した投票行動をとるのが一般的であり、今回の様に連邦政界での出来事やウクライナ情勢といった連邦レベルの事象が州議会選挙に影響するのは、やはり戦時という特殊な情勢下の投票行動なのだととらえるべきであろう。

 なお、特筆すべきは、シュレースヴィヒ-ホルシュタイン州内の独自政党、南シュレースヴィヒ選挙人同盟(SSW)が、今回得票率を伸ばしたことだろう。この政党は、この地域の歴史的かつ地理的特殊性であるデンマーク系住民が組織した地域政党であり、一般的には得票率が急激に増減することは考えにくいのだが、今回は前回から得票率を2.4%伸ばし5.7%という第二次大戦直後に行われた選挙に次ぐ戦後2番目に高い得票率となった。戦時下という事情において、デンマーク系の有権者が積極的に自分たちの権利を代表するSSWに投票した結果ととらえるべきであろう。

 開票結果に基づく全69議席の配分は、CDUが第1党で34議席(前回から9議席増)、緑の党が第2党に躍進し14議席(前回から4議席増)、SPDが第3党に転落し12議席(前回から9議席減)、FPDも議席を減らし5議席(前回から4議席減)、SSWは議席を増やし4議席(前回から1議席増)となった。

 この結果、CDUは州政権を成立させる過半数に1議席足りないだけの勢力となり、CDUギュンター州首相の続投が確実となっただけではなく、CDU色を非常に強く打ち出す形で他党との連立交渉に臨むことが可能となったといえる。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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