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2022年、フランス大統領選挙: マクロン氏再選、決選投票の結果について。

 4月24日日曜日に行われた決戦投票は、午後8時に投票が締め切られ、日付が変わった午前2時に確定した開票結果では、マクロン氏が58.54%(18,779,641票)を得票し、ル・ペン氏の41.46%(13,297,760票)を下し、再選を確定させた(フランス大統領は任期5年で、最大で2期、合計10年まで務めることが出来る)。

 マクロン氏は、午後9時過ぎにパリ・エッフェル塔の前に設定された会場で、支援者を前に当選のスピーチを行い、自分に投票した有権者は必ずしも全員が自分を支持していたのではなく、極右阻止の目的だけのために自分に投票せざるを得なかった層もいることを理解している、5年間の任期では、求められる責任に対して答えていきたいと述べた。また、投票そのものをを拒否して棄権した層、あるいは、ル・ペン氏に投票した有権者がいることも理解している、私は今、既に党の一候補者という立場ではなく、全ての人のための大統領である、と述べ、融和と団結を訴えた。

 対するル・ペン氏は、午後8時の投票締め切り直後、開票速報が始まった20分後という早いタイミングでパリ市内の会場に現れ、支援者を前にスピーチを行い、選挙結果を認めるが、内容としては実質的に我々の勝利だ、と述べ、6月のフランス議会選挙に向けて引き続き戦いを続ける宣言を行った。

 今回の決選投票における棄権率は28.01%であった。フランスの過去の大統領選挙をみると、20%を上回る棄権率は大変に高いといってよい。今回の第1回投票の棄権は26.32%であったので、決選投票では更に増えたことになる。棄権率28.01%は、1959年にシャルル・ドゴール政権時に現在の第5共和制に移行してから2番目に高い数字だ。フランス大統領選の決選投票で最も高かった棄権率は1969年の31.15%だが、この時は保守系候補の間での決選投票という異例の展開となったことで有権者の多くが積極的に棄権したという事情があり、例外と考えて良い。その後の棄権率は、オランド氏が選ばれた2012年の大統領選挙までは、12%~20%の間で推移してきた。

 オランド氏を軸とする社会党中道右派を改組して、共和党の一部と合流・拡大して生まれたのがマクロン氏が2017年に旗揚げした現在の与党La République en Marche (LREM)であり、マクロン氏が当選した前回2017年の大統領選挙では棄権率がいきなり25.4%に跳ね上がり、また、今回と同じように第1回投票よりも決選投票での棄権率の方が増えた。マクロン政権以前は、1969年の例外を除くと、常に決選投票の方が第1回投票より棄権率が少なかったので、今回の棄権率の数字の流れは、マクロン氏の与党LREMが取り込んでいる層が、旧社会党の中道右派とさらに右派の旧共和党の一部がカバーしていた有権者層にフォーカスしてしまい、それ以外の層の有権者の受け皿になっていないということを浮き彫りにしたといえる。

 また、今回の決選投票では、白票・無効票が合計で6.19%(合計で3百万票以上)と記録的に多くなっている。調査会社イプソスが行った投票直後に行った聞き取り調査では、白票・無効票を投じた理由として、49%がどちらの候補者も悪いと思うから、25%が特定の候補者を落とすためだけの目的で投票したくないから、20%がどちらの候補者も自分の考え方に合わないから、そして6%が自分がどのように投票しようともどうせマクロン氏が当選してしまうから、と回答している。フランスの大統領選挙は、期日前投票は認められておらず、投票所に直接出向き、身分証明による本人確認のうえ投票する必要があり、パリなどの大都市の投票所では待ち時間を含めて2時間近く時間がかかるので、白票・無効票を投じるのは、非常に強い抗議の意思表示とみて良い。従来は、棄権だけでも強い意思表示とみられてきたので、今回は、それに加えて白票・無効票が非常に多いことは、将来、フランス議会で議会を含む現行の政治システムあるいは選挙制度の見直しなどの議論の端緒となる可能性があるだろう。

 現状は、マクロン氏と与党LREMの推進する政治の中で経済的に取り残された、あるいは不公平感を感じている有権者をル・ペン氏が取り込み、あるいは、マクロン氏と与党LREMの向かう方向がグローバリズム寄りだと感じる有権者、あるいは弱者救済が不足していると感じている層を、急進左派メランション氏が取り込んでいるという状況であろう。フランスの政治システムでは、大統領権限が強大だが、組閣はフランス議会(下院)内での勢力図をもとに連立のオプションを含めてマジョリティを取る必要がある。しかし、現在の下院では、与党LREMがマジョリティを制しているため、組閣を通じて他の政治勢力が政策を反映する道もなく、疎外されていると感じる有権者層が余計に多い状況になっているのだろう。

 今回の大統領選挙では第1回投票の直後から、マクロン氏のもとに元大統領のオランド氏(所属政党、Parti Socialiste (PS))とサルコジ氏(所属政党、Les Républicains(LR))が頻繁にコンタクトし懇談を重ねている。この動きは、大統領選挙後の6月に行われるフランス議会選挙での選挙対策への体制づくりの側面が大きいのではないかと思われる。すでに大統領選挙の結果で明らかになったように、有権者の間でル・ペン氏が率いるRassemblement National(RN)とメランション氏が率いるLa France Insoumise (LFI)への支持が広がりつつあることが明らかとなり、現在議会(下院)でマジョリティーを占めるマクロン氏の支持基盤与党La République en Marche(LREM)がこのままでは大幅な苦戦が予想されるからだ。下院に現有議席をもつSPとLRについても、このままではそれぞれメランション氏のLFI、ル・ペン氏のNRに議席を食われることが予想される。この動きに対してSPとLRは、マクロン氏のLREMも交えた政界再々編の検討を始めているのではないか、そのように筆者にはみえる。

■参考資料: Election présidentielle 2022, Ministre de l'intérieur, La République de France

(Text written by Kimihiko Adachi)

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