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ウクライナ情勢: ノルマンディーフォーマット協議の結果について。

2月10日にロシア大統領府顧問コッサク氏とウクライナ大統領府顧問イェルマック氏が参加したミンスク2合意に基づくノルマンディーフォーマット協議は、ベルリン市内のドイツ外務省の関連施設で9時間にわたって行われた。

打ち合わせ終了後の深夜、ウクライナ側とロシア側はそれぞれの大使館で別々に記者会見を開いた。会見の要旨は下記の通りだ。

ウクライナ側の会見要旨:
・今回の協議では合意を見出せなかった、
・ウクライナとしては、今後もノルマンディーフォーマットでの協議を継続したい意向がある、
・また、ノルマンディーフォーマットと並行して、Trilateral Contact Group(TCG)での協議も再開したい、
・次回のノルマンディーフォーマット協議は近日中の開催を期待するが、TCGも含め日程は未定だ。
(Trilateral Contact Groupとは、東ウクライナの紛争地域ドンバスで停戦を実現・維持し、平和な状態を回復することを目指すための、ロシア、ウクライナ、及びOSCE-欧州安全保障協力機構(Organization for Security and Cooperation in Europe、停戦監視を含む欧州の紛争を調整するための地域安全保障機構、本部ウイーン)の3者による協議のことを指す。)

ロシア側の会見要旨:
・9時間にわたる長い協議であったが、双方の相違点を乗り越えることができなかった、
・ウクライナ側は、今後の協議に紛争地域ドンバスの代表者を加えることを拒否した、
・今回の協議では何らの合意あるいは合意文書の作成に至らなかった、しかしウクライナ側はノルマンディーフォーマット協議の継続の意向を表明している、
・ロシア側はウクライナ側に対し、ドンバスの将来的な地位をどのように考えているのかを問いただしたが、ウクライナ側からは回答を得られなかった、
・ウクライナ側は(将来交渉が進展して)合意文書を作成するようになった場合は、それをミンスク合意と関連付けることについては拒否するとの意向表示があった、これはロシアとの間で最も大きな相違点だ、またこれに関して、協議に同席した仲介役のフランス、ドイツ代表者からもウクライナに姿勢を正すような働きかけは行われなかった、
・ロシア側としては何ら新しい提案を行ったわけではなく、ミンスク合意の内容を強調しただけだ、こうしたロシア側からのミンスク合意に従った提案に対して、ウクライナ側から返答があって初めてTCGが開催できる、しかし、今の状態では行き詰まりである、
・現状はあまりにも相違点が多く、あまりにも進捗が乏しい、従ってノルマンディーフォーマットでの閣僚レベルの協議の開催は時期尚早である、
・今後は、まずTCG開催をどうするかを見極めて、その上で次回のノルマンディーフォーマットの協議をいつ行うかを決めたい。

筆者が双方の会見を見た結論としては、ロシア側もウクライナ側も紛争地域ドンバスの地位に関して一切の妥協をしなかった、つまり、ロシア側は2015年2月に締結されたミンスク2合意の履行をウクライナ側に強く求め、ウクライナ側は現在のミンスク2合意がドンバスの親露派勢力を当事者として加えると、今後の協議自体がロシア側の意向にのみ従って進展しまいかねないという内部矛盾を抱えており、従って今のままのミンスク2合意は受け入れられない、という従来からの見解を双方が繰り返したといえる。

また、ロシア側がウクライナ側に対して現在のミンスク2合意の履行を強く迫る姿勢が非常に頑なであり、仮にウクライナ側の提案に従いドンバスに関するTCGを開催し、紛争の現状において当初とは異なる何らかの事情変更が認識されたとしても、ロシア側はミンスク2合意の修正に応じる可能性が乏しいと思われる。

ロシア側の姿勢が頑な背景は、現在のミンスク2合意がロシア側に有利な内容であること、ウクライナがEU・NATOへの加盟を目指していることから、ロシアにとってはドンバス地域をロシア側に繋ぎ止めることで、その隣にあるクリミアのロシア海軍セヴァストポリ基地の地位を含めた黒海沿岸地域での安全保障上の脅威を未然に防止したいという意図があること、と推定される。

従って、状況を打開するためには、ノルマンディーフォーマットでの協議だけでは限界があり、フランス・マクロン大統領が進めるヨーロッパ安全保障の新しい形を模索するような協議を、ロシア側と積極的に推進する必要があると思われる。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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