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フランス議会下院選挙(Élections législatives françaises )、第1回投票結果について。

 5年毎に全577議席を改選するフランス議会下院の第1回投票が6月12日に行われ、日付が変わった午前2時時点の開票速報では、急進左派ジャン=リュック・メランション氏が率いる政党La France Insoumise(LFI)を母体として、環境政党ヨーロッパ・エコロジー(Europe Écologie-Les Verts、EELV)、社会党、共産党およびその他左派グループから結成された連合Nouvelle Union populaire écologique et sociale(NUPES)が得票率で25.7%と、大統領のマクロン氏が率いる政党Renaissanceを母体とする連合ENSEMBLE!の25.7%と拮抗しており、NUPESの躍進が鮮明となった。

 フランス議会選挙は小選挙区かつ2回投票制であり、577の議席をフランス全土で566の選挙区とフランス国外に居住するフランス人を世界の各地区別に分けた11の在外選挙区から各選挙区毎に1議席を争うもので、各選挙区においては、1回目の投票の上位2名により1週間後に行われる2回目の決選投票により勝者が決まる仕組みだ。したがって、第1回投票での得票率がそのまま最終的な議席獲得につながるわけではなく、今回の第1回投票結果をうけた調査会社IPSOSの予測では、第2回投票で実際に当選する議席は、ENSAMBLE!が255~295議席と、NUPESの150~190議席を上回るという予測を出している。しかし、NUPESの躍進により、マクロン氏の与党勢力が単独で絶対過半数(289議席以上)を得られるかは微妙な状況となってきたといえる。

  19日に行われる第2回投票でマクロン氏のENSEMBLE!が単独過半数に達しない場合は、マクロン氏が取りうる選択肢としてはサルコジ元大統領をパイプ役として共和党との連立を模索する公算が高いが、共和党内にはマクロン氏側とは距離を置くべきであるという意見も強く、スムーズに連立が出来るかは不透明だ。ENSEMBLE!が単独過半数を維持できれば、現在のボルヌ内閣は継続するが、過半数割れの場合は内閣は総辞職となり、連立をベースとした新内閣を組成する必要がある。

 この小選挙区・2回投票制のもとでは、候補者が特定の選挙区に長年根付いている場合を除けば、2回目の決選投票で出来るだけ幅広い有権者層を取り込める政党が有利になる。そのため、特に2000年のフランス憲法改正で、大統領任期と議会任期を同じ5年に揃えて以降は(それ以前は、大統領任期は7年と議会より長かった)、従来の主要政党であった共和党、社会党ともに中道寄りの姿勢をとるようになり、さらに、この状況を最大限利用して中道右派勢力をまとめたマクロン氏が率いる共和国前進LREM(現Renaissance)が2017年の大統領選挙での勝利と議会(下院)選挙でのマジョリティー支配を達成することに成功し、共和党と社会党の勢力は大幅に削がれた。今回の下院議員選挙では、マクロン氏が率いる与党勢力に対抗するために、メランション氏が率いるNUPESでは左派を基軸にして、マクロン氏の与党勢力、及び右派の共和党、ル・ペン氏及びゼムール氏が率いる極右勢力を除いた勢力を全てまとめ、反マクロンと反極右を旗印にして結集することに成功した。

 ただ、常に大統領側与党に有利な結果が出がちなこうした選挙制度の特性により、投票を通じた影響力の実感が持てない有権者の投票離れが進み、2012年には第1回投票での棄権率が42.78%、第2回投票での棄権率が44.59%と双方が40%を超える深刻な事態となり、前回の2017年には第1回投票での棄権率が51.3%、第2回投票での棄権率が57.36%と投票に行かない有権者が圧倒的にマジョリティーという事態に陥った。そして、今回の第1回投票では棄権率はさらに悪化し、52.8%となっている。今回の第1回投票終了後に会見を行ったボルヌ首相は、棄権率の悪化に強い憂慮を表明し、制度改正の必要性について言及したが、第1期マクロン政権でも制度改革を表明したものの行動に移すことが出来なかった。こうした状況が続く限り、有権者は政治意志の表明のためにイエローベスト運動などの暴力的な抗議行動にますます頼らざるを得なくなることが強く懸念される。

■参考資料: Les résultats en direct, Ministre de l'Intérieur


(Text written by Kimihiko Adachi)

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