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米国バージニア州、ニュージャージー州知事選開票結果について。

11月2日に行われた米国のバージニア州およびニュージャージー州の知事選は、民主党候補に対して共和党候補が肉薄する激戦となった。両州とも前回の知事戦では民主党が制していた上、昨年11月の大統領選挙でも民主党バイデン氏が、また、同時に行われた上院議員選でも民主党候補が余裕を持って制していた。それだけに、今回の知事選で共和党候補がバージニアで得票率2.5%差で激戦を制し、ニュージャージーでは最終的に民主党候補が再選を勝ち得たものの共和党候補に得票率1.8%差まで詰め寄られたのを見て、来年11月に行われる上下両院の中間選挙に向けて米国政治に地殻変動が起き始めていると筆者は感じた。

今回の両州における知事選で共和党候補がとった戦略で特筆すべき点は、両候補ともトランプ氏とは明確に距離を置き、結果それが選挙戦を有利に進めることになったという現象だ。トランプ氏に対するアレルギーが強いニューヨークに隣接するニュージャージーでトランプ氏と距離を置くのは妥当な判断と理解できるが、バージニアではトランプ氏サイドからサポートのアプローチがあったのを敢えて断り、候補者が終始独自の路線を貫き選挙戦を戦い勝利を手にした。

両共和党候補とも、主な主張は減税と小さな政府組織により経済を活性化させるという共和党の伝統的な政策路線であり、バイデン政権と民主党が進めようとする大きな政府への牽制がメインであった。また、バージニアでは、現在公立学校で行なわれている反人種差別教育に異を唱える主張が支持を集めた。こうした民主党的色彩が濃いイデオロギーに反対を唱えることで、浮動層を一気に引きつけることに成功した。

こうした共和党陣営の戦略が功を奏し、バイデン氏が昨年の大統領選挙で両州で得た勢いを民主党候補は引き寄せることができなかった。民主党陣営は、共和党候補とトランプ氏との間に何らかの関係を見出して攻めようと躍起になった。しかし、共和党候補がトランプ氏的要素を完全にシャットアウトして戦ったことで、有権者のトランプ氏アレルギーを掻き立てようと目論んだこうした民主党陣営の戦略は全く機能しなかったのだ。

両州において、結果としてトランプ氏的要素が完全に排除された純粋に州レベルの政治にフォーカスした選挙が行われたことになる。米国の全国メディアは、今回の選挙結果はバイデン政権にとって大きな痛手だと盛んに報じているが、必ずしもそうではないであろう。今回の選挙結果で明らかになったことは、米国内政治は昨年大統領選挙時のバイデン氏対トランプ氏というような単純な構図が通用しない新たな段階に入ってきたということだ。

今回の選挙結果から、バージニア州は情勢により共和党にも民主党にも振れる、いわゆるスイング・ステートの状態に戻ったのではないかと想定される。一方、ニュージャージー州は微妙で、伝統的には民主党の票田とされているが、必ずしもそうではないというのが筆者の見方だ。今回再選された知事の前任は共和党のクリスティー氏であり、2期8年知事を務めたクリスティー氏が任期終了間近にトランプ氏に接近したことに対する強い反動で現在の民主党知事となった経緯があるからだ。

来年11月の中間選挙に向けた米国政治の展望だが、今回の両州の知事選で共和党候補がトランプ氏と距離をとることで選挙戦を有利に進めた点に注目すべきであろう。つまり、トランプ氏が来年の中間選挙で影響力を強く打ち出そうとした場合は、それが共和党にとり有利に働くかどうかは微妙だということだ。中間選挙でも今回の知事戦のように共和党各候補がトランプ氏と距離を置くことができれば、共和党はより有利に選挙戦を戦うことができるかもしれない。

逆に民主党は、昨年の大統領選挙時は反トランプ氏の衝動がバイデン氏の得票を押し上げていた要素が強かったということを、今回の選挙結果から認識すべきであろう。その上で、来年の中間選挙をどのように戦うべきなのか戦略をよく練る必要が出てきたと言える。特に、共和党がトランプ的要素と距離を置く方向に舵を切った場合にはそれが決定的になるであろう。何れにしても、今回の両州の知事選によって、来年の中間選挙に向けた米国の国内政治が一気に動き出したと言えよう。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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