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米国社会保障関連法案(Build Back Better Bill)の連邦議会下院通過について。

11月15日にバイデン大統領が署名し成立した1.2兆ドル規模のインフラ法と抱き合わせで議会審議されてきた社会保障関連法案(通称Build Back Better Bill)が、米国ワシントンDC時間11月19日午前に下院で採決され、民主党主体に賛成票220/反対票213で可決され法案は上院へ送られた。

Build Back Better Billは総額1.75兆ドルの巨大な予算規模で、その中にはパリ協定/COP26の枠組みに従いアメリカが脱炭素化を実現していく原資だけではなく、ヨーロッパ主要国と比較して劣っていたアメリカの社会保障制度を一定レベルの水準に引き上げるための重要な政策パッケージも含まれている。

 主要項目としては、医療保険の適用範囲拡充、高額医薬の自己負担の引き下げ、就学前幼児保育の無償化、子育て家庭向け税額控除、産休を含む有給家族休暇制度の創設、低額家賃住宅の創出、等がパッケージとして盛り込まれている。連邦レベルでの社会保障制度の拡充としては1960年代以来となり、インフラ法案と合わせてバイデン政権にとり最も重要な法案だ。

上院では週明けから法案審議に入り、その後採決にかけられる。その過程で法案に修正が加えられた場合には、再度下院で採決を行い最終的に法案が成立する予定だ。全米のメディアの論調は、法案の成立に関してどちらかというと慎重な見方だ。上院では民主党が過半数を占めているが、共和党との差は実質的に1議席分だけであり、共和党が反対に回る情勢下では民主党の議員全員が採決で賛成に回る必要があるからだ。

民主党でキャスティングボードを握るマンチン上院議員(ウエストバージニア州選出)は、現状のままの法案の内容には難色を示しており、民主党関係者はマンチン議員との交渉が暗礁に乗り上げる場合も想定して、共和党の一部の上院議員で法案支持の可能性がある議員も巻き込んだ交渉を並行して行なっていると見るのが妥当だ。民主党でもう一人キャスティングボードを握るシネマ上院議員(アリゾナ州選出)の態度は、最終的にはマンチン議員の動向に影響されるというのが筆者の見方だ。

上院での審議の過程で、法案には交渉を反映した修正が入ることになるが、問題となるのはマンチン議員らと歩調を合わせるために必要となる法案の修正範囲が、下院側で了承できる内容に収まらない場合だ。その場合は、民主党内の主に急進左派は強く反発するであろう。民主党内部は党内分断の事態を回避するために、マンチン議員らと足並みを揃えるのが困難な場合は、共和党で法案の支持に回れる議員を引き込む戦略も検討しているのではないか、筆者はそのように考えている。

しかし、共和党側からの支持も得られず、且つ、マンチン議員との修正案が民主党急進左派が同意できない状況に陥った場合はどうなるのか。その場合はマンチン議員らの意向が優先され、下院では急進左派が反対に回る中で採決を行わざるを得ない。急進左派が反対でも、下院における民主党の議席マジョリティは揺るがないので法案は成立するが、民主党内に亀裂が生じれば来年の中間選挙に向けて影響が出るだろう。

中間選挙前のアメリカ国内政治は、ここへ来ていきなり最大の山場を迎えることになりそうだ。ホワイトハウス、ペロシ下院議長を中心に、民主党は総力を挙げて上院関係者との法案成立のための折衝を行うであろう。議会日程的には、11月24日からサンクスギビング(感謝祭)の休暇に入る。当初バイデン政権としては、その前のタイミングでの法案成立を狙っていたが、時間的には困難であり、最終的な法案成立は、感謝祭休暇後の12月にずれ込む公算が高いと見るべきであろう。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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