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ロシア天然ガス: ロシアによるポーランド向けガス供給停止について。

 ポーランド国営ガス・オペレターPGNiGは26日声明を出し、ロシアからヤマル・パイプライン経由でPGNiGに供給されているポーランド国内向け天然ガス供給(Yamal contract)を4月27日付けで停止するとの文書通告をロシア国営ガスプロムから受けたことを明らかにした。PGNiGは、いまのところポーランド国内向け供給分のガスは十分に確保できているうえに、ポーランド政府の支援で複数の代替策を検討中、つまり、ポーランド国内を通るガス・パイプライン網の西側国境(ドイツ)からのガス供給、南側国境(ウクライナ)からのガス供給、LNG発注量の増加、さらに不足する場合は、ポーランド国内産ガス、および国内のガスのリザーブを充てる予定にしている。PGNiGによると、現在のガスのリザーブ水準は80%であり、前年同時期と比較して十分に余力がある。

 ロシア大統領が3月31日に署名した大統領令(Decree No. 172)により、非友好国(対ロシア制裁に加わっている国をさす)のロシア天然ガスの輸入者に対して4月1日付け以降からの取引はルーブルでの決済を義務付けられることになった。また、ヨーロッパ諸国むけの具体的な決済手順として、ロシア天然ガスの輸入者は、ガスプロムバンクに外貨建てとルーブル建ての特別口座を開設する必ことにより、輸入代金全額をユーロ(あるいは米ドル)で外貨建て特別口座へ送金を行い、そのうえで届いた外貨をガスプロムバンクがルーブルへ交換し、それをルーブル建て特別口座にデポジットし、それを最終的に輸出者であるガスプロムが引き落とすという支払い手順を求めていた。表向きはユーロ送金による決済のように見えるが、特別口座を開設してルーブルに替えたうえで最終的にガスプロムが引き落とすので、実質的にはルーブル建ての支払いであることに他ならない。

 ポーランドでは26日、エネルギー政策を統括するピョートル・ナイムスキ政府顧問が、ロシアからの特別口座開設による支払い要求には応じない旨表明していた。ポーランド政府およびPGNiGは、EU欧州委員会が出したロシア要求の特別口座開設による支払いを認めるガイドラインの措置は取らずに、ロシアからの要求を拒否する決断を行ったものと思われる。ポーランドのロシアからのガス供給契約は、残存期間は今年末までしかなく、ポーランドとしては契約延長の意向も無いことをすでに表明していた。したがって、今回のポーランドの動きは、残り期間の少ないロシアとの契約を、この機会に早めに切ってしまうという判断をしたのだと思われる。

 ポーランドは、歴史的背景から反ロシア感情が強い風土だが、2014年のロシアによるクリミア併合以降は、反露感情が更に強くなっているという政治的背景がある。今回のロシアからの変則的な特別口座開設による事実上のルーブル建て決済の要求について、要求に屈した印象を与えながら年末までの残り少ない期間のガス供給契約を維持するよりかは、ロシア側の要求を拒絶する姿勢を見せることが市民感情からも強い支持を受けるとポーランドの現政権は判断したのだろう。現在建設中のノルウエーの天然ガスをバルト海経由でポーランドまで運ぶガス・パイプラインが今年10月に運転開始予定であり、そこから供給されるガスが現在のロシア・ヤマルパイプラインからの供給量を代替するので、ポーランドは天然ガスについて、年内で脱ロシア化を達成することになる。

 なお、ロシア側からのルーブル建て決済の要求に対して、EU欧州委員会は4月22日、EU域内の企業はロシア側の要求の通りに行ってもよい、つまり、ロシア側の要求通りに特別口座を開設して支払いをユーロ(あるいは米ドル)で送金したうえでルーブルに替えてガスプロムが引き落としても、EUがロシアに対して科している制裁を破ることにならないので、この決済方法をとることは可能との見解を明らかにしていた。EU欧州委員会の判断は、ユーロ建てによる支払いの原則を厳格に貫こうとしてロシアとの間での摩擦を高めることでヨーロッパ内での天然ガス供給の安定性についてエネルギー事業者や市民の間で不要な社会不安を引き起こさないよう配慮をしたものだといえる。

 特に、ガス代金をロシアに支払うことで、ウクライナでの侵略行為に資金的に加担することになるという嫌悪感情が強いドイツでは、そうした市民感情を配慮して、リンドナー財務大臣からドイツ企業はロシアの要求を呑むべきではないとの声明を出していた。しかし、実際にはロシアからのガスに代替する調達は短期間では不可能であり、ドイツ企業もEU欧州委員会のガイドラインに従うことで、市場の混乱を防止するという流れになるとみてよい。

■参考資料: Information on gas supplies under the Yamal contract, PGNiG and GAZ-SYSTEM

(Text written by Kimihiko Adachi)

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