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フランス大統領選挙: 決選投票に向けた選挙戦の状況(5)

 4月16日土曜日、マクロン陣営はル・ペン陣営の動きの後を追うように1日遅れでパリ、リヨンに次ぐ大票田マルセイユを訪問し、市中心部高台の広場で支援者を前に1時間半にわたる演説を行った。演説の前半は極右阻止を訴え、ル・ペン氏とゼムール氏の名前を挙げて両氏を社会分断の元凶として激しく糾弾、支援者から拍手喝采を得た。続いて、注力する目玉政策として、脱炭素社会構築のために産業・社会政策を打ち立てることを表明した。暗に脱炭素化を推進するEU体制を支持する姿勢を印象付け、脱炭素とEUに懐疑的なル・ペン氏の姿勢を牽制したものとみるべきだろう。マクロン氏の演説は、いつもの通り自信に満ち溢れ、淀みのない弁舌でマクロン氏らしい強気のスタイルに終始していたが、今回の大統領選挙の有権者の最大の関心事である生活をとりまく経済問題に関しては言及はなかった。

 対するル・ペン陣営は、パリ西部の近郊ウール・エ・ロワールへ遊説。ここは、典型的な経済が困窮するラスト・ベルトで、住民はイエロー・ベスト運動への参加者が多く、第1回投票ではル・ペン氏が得票第1位を獲得した地域だ。フランスのテレビ局は、マクロン氏の選挙戦を優先し、ル・ペン氏の遊説の放映を極力避けているが、ル・ペン氏自身がSNSで発信している遊説先での演説をみると、経済的困窮への対応策の説明にかなりの割合を割いており、内容的には急進左派メランション氏が掲げる姿勢とかなりオーバーラップしていることがわかる。ル・ペン氏の今回の選挙運動は、前回2017年の時からかなり変わっているとみたほうが良い。今回は、実質的に社会党左派やフランス共産党がカバーしていた支持層をかなり取り込む方向に路線を変えている。このことが、今回の選挙戦の初期の頃にル・ペン陣営から一部の幹部が離反し、より極右色の強いゼムール陣営に流れた理由であろう。

 これまでの状況を見る限り、マクロン陣営は路線変更はせず、従来通りの強気の姿勢を維持して選挙戦の終盤に入るようにみえる。このままでは、第1回投票でメランション氏に投票した若年層は、その多くが決選投票ではマクロン氏への投票を避け、白票の投票あるいは棄権を選ぶであろう。また、中高年層のメランション氏支持者の一部は、ル・ペン氏の掲げる経済対策に親和性を見出すか、あるいは、マクロン氏への抗議票として、決選投票ではル・ペン氏へ投票をするであろう。

 4月24日に行われる決選投票に関して、調査会社イプソスが16日に出した最新予想では、マクロン氏が55%を得票し、ル・ペン氏の45%を下し勝利するとしているが、2日前と比較するとマクロン氏のリードが2ポイント低下しており、依然として予断を許さない状態だ。投票日4日前の4月20日夜に行われる予定の候補者2人によるTV討論も、有権者の投票行動に大きな影響を与えるが、ディベートを非常に得意とするマクロン氏は、ル・ペン氏に完勝した前回2017年のTV討論の時のように強気の姿勢で臨むのであろう。しかし、今回は、マクロン氏が逆風下の現職大統領としてル・ペン氏の攻撃にさらされる側にまわるので、マクロン氏にとり必ずしも有利な状況ではない、その点は注意が必要だ。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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