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フランス議会下院選挙(Élections législatives françaises ): マクロン氏与党連合が大敗、メランション氏左派・環境連合およびル・ペン氏極右政党が躍進へ。

 フランス議会下院の選挙(小選挙区かつ2回投票制、全577議席)は、19日に最終議席を決定する第2回投票が行われ(投票終了時間は午後6時、都市部は午後8時)、日付が変わった午前零時時点の調査会社IPSOSによる速報では、大統領のマクロン氏が率いる政党Renaissanceを母体とする連合ENSEMBLE!の獲得見込み議席が245議席と、単独で政権運営が可能となる絶対過半数(289議席以上)のラインを大幅に下回り、大敗といってよい結果となった。これに対して、急進左派ジャン=リュック・メランション氏が率いる政党La France Insoumise(LFI)を母体として、環境政党ヨーロッパ・エコロジー(Europe Écologie-Les Verts、EELV)、社会党、共産党およびその他左派グループから結成された連合Nouvelle Union populaire écologique et sociale(NUPES)は獲得見込み131議席の躍進となっている。また、今回の選挙で大激震ともいえる躍進を遂げたのが、ル・ペン氏が率いる極右政党Rassemblement national(RN)であり、RNの獲得見込みは89議席となっている(選挙前は8議席)。

 マクロン氏の与党連合ENSEMBLE!は、議席数で惨敗となっただけではなく、下院議長の座にあったリシャール・フェランド氏が落選、また、現職の主要閣僚のうち、環境担当大臣および厚生大臣が落選(首相のボルヌ氏は当選)、また、Renaissanceの現党首でマクロン氏の右腕クリストフ・カスタネル氏も落選するなど、惨憺たる結果となった。与党連合自身が単独過半数に達しなかったため、連立による新内閣組成が必要となるが、新たな首相が任命されることになるのか、かあるいはボルヌ氏が首相が続投するのかはその上で決まることになる。

 連立を模索するためにマクロン氏が取りうる選択肢としては、サルコジ元大統領をパイプ役として共和党(獲得見込み61議席)との連立を模索する公算が高いが、共和党内にはマクロン氏側とは距離を置くべきであるという意見も強く、連立に至るまでの交渉は簡単ではないと予想される。マクロン氏自体、単独過半数の与党を率いてきた経験しかないため、連立という複雑な政治状況にうまく対処できるのかも不透明だ。共和党との連立協議が不調な場合は、NUPES連合の中からEELVあるいは社会党の一部を引きはがして連立に引き込む戦略をとる可能性も想定されるだろう。ウクライナ情勢への対処をめぐり困難な情勢が続く中、ヨーロッパの盟主であるフランスに政治的空白を生じさせる猶予はなく、マクロン氏としては状況を短期間で打開する方策を模索するものと思われる。

 なお、ル・ペン氏率いるRNの獲得見込み89議席は、マクロン氏与党連合やメランション氏左派・環境連合のように複数の政党が選挙協力で連合して得る議席数とは異なり、RN単独で獲得する議席であり、その分、議会の中における実際の影響力は非常に大きくなると考えられる。RNはフランス議会のなかで主要政党の一角にいきなり躍り出たことになる。ル・ペン氏およびRNは、ロシア・クレムリン、ドナルド・トランプ氏および米共和党と親和性があり、今回のRNの躍進は、ロシアとヨーロッパの関係性や今年11月のアメリカ中間選挙の動向に影響を与える可能性がある。

■参考資料: Les résultats en direct, Ministre de l'Intérieur

(Text written by Kimihiko Adachi)

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