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ロシア天然ガス: ロシア大統領令、4月以降ヨーロッパ諸国に適用される支払い条件について。

ロシア大統領は31日、4月1日から非友好国(対ロシア制裁に加わっている国をさす)のロシア天然ガスの輸入者に対してルーブルでの支払いを義務付ける大統領令に署名した。従わない場合には、天然ガスの供給を停止するとしている。

大統領令には、具体的な支払い手順として、ヨーロッパ諸国むけの決済手順とみられるユーロを利用する支払いについて記載されており、それによるとロシア天然ガスの輸入者は、ガスプロムバンク(ロシア国営会社ガスプロムの関連会社として設立されている銀行、天然ガス取引の決済業務を行っており、制裁の対象外)にユーロ口座と同時にルーブル口座を開設する必要があり、まず輸入代金全額をユーロ建てでユーロ口座に支払い送金を行い、そのうえでガスプロムバンクにユーロ口座に届いたユーロをルーブルへ交換する指示を出し、ルーブル口座に代金を入れそれを最終的に輸出者であるガスプロムが引き落とすという手順になっている。

しかし、この手順だと、ヨーロッパの輸入者はユーロで最初に送金をするので表向きはユーロによる支払いのように見えるが、ルーブル口座を開設してルーブルに替える指示を輸入者が行ったうえで最終的にガスプロムが引き落とすので、実質的にはルーブル建ての支払いであることに他ならない。

ヨーロッパでは、30日夜に、ドイツ・ショルツ首相がロシア大統領と電話会議を行い、そこで、ロシア大統領より、4月以降もヨーロッパ各国に関しては、従来通りユーロあるいは米ドル建ての決済を認める意向との話があったとされていた。しかしふたを開けてみると、実際にロシア側が出してきた内容は、表向きはユーロ払いに見えるが実質的にはルーブル建てに他ならないという内容であったということだ。31日のロシア側の発表をみたショルツ首相は、即座に、ロシア天然ガス取引の契約条件はユーロ建てとなっており、そこから変えることはできない、その旨電話会議でも明確にロシア大統領に伝えてある通りだというコメントを出した。

また、ドイツとフランスの経済担当相は連名で、ヨーロッパ諸国はロシア天然ガス購入の支払いをユーロでしか行わない、ガスプロム側が受け取ったユーロをどのように処理するのかはそれとは関係のないことだ、とだけコメントをし、ロシア側からのルーブル口座開設とユーロからルーブルへの交換要求については、拒否するのかどうかについては言及を避けている。

ロシア側の狙いは単純で、ヨーロッパ諸国がユーロ建てによる支払いの原則を厳格に貫こうとしてロシアの提案を呑めないといわせることで、天然ガス供給が停止されると困るヨーロパのエネルギー事業者や市民を不安に陥れ、社会不安を作り出し揺さぶろうということであろう。したがって、ヨーロッパ側としては、簡単にイエス・ノーをロシアへ回答するのではなく、まずヨーロッパ内の身内に対して、想定される成り行きと必要な対処策についてあらかじめよく合意を形成したうえでロシアへの返答を行う必要がある。(単純に社会不安を恐れて、ヨーロッパ諸国がロシアの提案を受けたというストーリーになれば、実質的にロシア中央銀行の外貨取引停止の制裁が解除されたということにもなるので、ロシア側としては制裁に打ち勝ったとして、陰に陽に国内外へのプロパガンダを広めるであろう。)

4月1日になるとロシアからのパイプラインを伝わって入ってくる天然ガスの供給量が突然変わるというようなわけではなく、ロシアへの態度を決めるのは支払い期限が来る月末4月30日までに行えばよいので時間的猶予はある。ヨーロッパ諸国は、それまでの間に様々なシナリオに基づきリスク対策の検討を進めながら態度を固めることになると考えられる。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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