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ドイツ・ノルトライン-ヴェストファーレン州議会選挙: CDUが第1党を維持、緑の党が大躍進。

 5月15日に行われ午後6時に投票が終了したドイツ西部、デュッセルドルフやケルン等の主要都市を多数擁するノルトライン-ヴェストファーレン州の州議会選挙は、午後11時の段階のドイツ公共放送ZDF開票速票によると、キリスト教民主同盟(CDU)が2017年に行われた前回選挙時の得票率から2.9%伸ばし35.9%で第1党の座を維持、第2党の社会民主党(SPD)が前回比4.5%落とし26.7%の得票率、また、ドイツ連邦レベルにおいて、SPDと組んで連立政権入りしている緑の党は、前回から11.6%伸ばす大躍進を見せ得票率を過去最大の18%とし、5年ぶりに第3党の座へ返り咲いた。しかし、同様に連邦レベルで連立政権入りしている独自由民主党(FDP)は、得票率を前回から6.8%落とし、5.8%と振るわなかった。

 ノルトライン-ヴェストファーレン州は、現在のCDU新党首メルツ氏や、メルケル体制後を引き受ける形で昨年の連邦選挙のCDUの顔であった政治家アルミン・ラシェット氏を輩出してきた地盤であり、特にCDUに関しては州議会で起きたことが州レベルだけではなく連邦レベルにおいても大きな影響力を与える州だと捉える必要がある。今回の州選挙の争点は、実質的には、今年に入りメルツ氏を新しい党の顔に選んだ新生CDUに対する信任投票の意味合いが強かったといえる。CDUが前回と比較して得票率が微増する形で第1党の座を維持したことは、新生CDUに対して有権者がある程度前向きに評価をした結果と見てよいだろう。

 これに対して、SPDが今回得票率を4.5%落としたという点だが、現在の連邦レベルにおけるSPDショルツ政権に対するドイツ全土での評価を考えると、4.5%という下落は非常に少ないと言ってよいだろう。連邦レベルでは、特にウクライナ情勢に対するショルツ政権の立ち回りが問われているが、有権者は、今回のノルトライン-ヴェストファーレン州議会選では連邦レベルとは若干距離を置いた評価をしたといえる。

 ただ、気がかりなことは、今回の選挙の投票率が55.5%と非常に低かったことだ。この数字は、ノルトライン-ヴェストファーレン州としては史上最も低い数字だが、州議会選挙での一般的なレベルである60%台から70%台前半からすると驚くほど低い。昨年の連邦議会選挙をきっかけに体制崩壊をきたしたCDU、政権を取ったものの戦時下での立ち回りが問われているSPDという従来の2大政党の現状に一定の有権者層が幻滅していると見るべきだろう。

 逆に、緑の党の大躍進は、ウクライナ情勢における連邦レベルでの党の活躍を有権者が肯定的に評価したことを示している。連邦で連立政権入りしている緑の党は、ウクライナ情勢に関して、当初武器供与には非常に消極的だった連邦政治の流れを、2月末にロシア軍がウクライナで非戦闘員を標的とした無差別攻撃を行っている実態が明らかになり世論が急激に変わり始めると、対戦車ミサイルや対空ミサイルをはじめとする武器供与の開始の方向に舵取りを行い、また、エネルギー安全保障における大転換においても緑の党が主導権を取り推進中なのが誰の目にも明らかだ。

 ノルトライン-ヴェストファーレン州議会では、第二次大戦後以来、常にドイツの伝統的2大政党CDUとSPDが拮抗する形で入れ替わりながら政権運営が行われてきた。また、連立樹立のパートナーとしては、CDUはFDPと、SPDは緑の党との組み合わせで連立が行われてきた。今回の選挙戦において、CDUもSPDも連立を誰と組むのかは明確にしていたわけではないが、選挙戦の間、有権者の目には今回も従来通りの組み合わせが前提になっているように映っていたのは間違いない。

 しかし、今回の選挙結果をみると、FDPとCDUの得票を合わせても過半数に達しないため、一気に緑の党が新政権樹立の主役に躍り出ることになる。つまり、CDUもSPDも緑の党と連立を形成しなければ政権を樹立させることが出来ないからだ。従って、緑の党は、CDUおよびSPDの双方と連立協議を行い、その結果をうけて実質的に緑の党がCDUあるいはSPDのどちらかを選択して連立政権樹立という流れになるのだろう。

 連立協議の際には、緑の党はかなり強気に出るであろうから、結果としてCDUは妥協する形で連立入りすることを敢えて避けて、逆に野党の立場で議会入りする方向を選ぶか、あるいは、連邦レベルでメルツ新党首のもとで体制固めが進む新生CDUの勢いを維持するために、敢えて今回、緑の党と組んで州政権を取ることを選ぶのか、どちらかを選択することになるだろう。仮に今回、CDUが緑の党と連立を組んだ場合、ノルトライン-ヴェストファーレン州の歴史でこの2党が連立するのは初めての事態となる。緑の党がCDUとではなく、SPDと連立を組む場合には、緑の党とSPDの両党を合わせても今回は過半数には足りないため、FDPを加えた3党での連立を行う必要がある。この3党の組み合わせは、現在の連邦政権の連立と全く同じ形態なので組み合わせ自体としては問題はないが、現在ドイツ全土で支持率を落としているショルツ政権の連邦レベルでのイメージが、州レベルでも有権者の目に重複して映る可能性を各党は慎重に評価した上で、連立協議を行う必要があるだろう。

 何れにしても、今回の選挙結果を受けた連立協議は緑の党が中心となりかなり時間をかけて行われることになるだろう。仮に、緑の党を中心とする連立協議がCDUあるいはSPDの双方ともまとまらない場合は、CDUとSPDという2大政党同士が直接大連立を組むことも可能だが、それは、CDU内に政権を主導的に取りたいという力学が働き、緑の党との連立協議では敢えて妥協を拒み、その上でSPDを連立に直接引きずり込むという流れができた場合に限られるだろう。また、その前に、SPDとしてはまず緑の党との連立を優先して志向するであろう。したがって、このCDUとSPDの大連立というシナリオは最後のオプションでしかないと思われる。

 完全なマニフェスト選挙で争われるドイツ式議会制民主主義においては、選挙後に行われる各党間の連立協議が実際に成立する政権が行う政策の細部まで詰めることになり政治的に大変重要だ。従って、連立協議の行方を今後よく見ていく必要がある。

(Text written by Kimihiko Adachi)
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