薄れたボール
小学生の時にサッカークラブに入った。みんな同じメーカーの同じ色のボールを買わされた。
それぞれマジックで名前を書くんだけど使ってるうちにボールの色味や感じが変わってくるから名前が薄れても見分けることができた。
入った時期が近かったマコトのボールと自分のボールは色味とかが似ててお互いに見間違えて手に取ってしまい渡したりしていた。
そのうちにマコトのボールの方が早く薄れて行って違いが出た。
マコトのボールの色味が好きで自分のボールをアスファルトに擦り付けたり石で叩いたり壁に強く蹴り付けたりしてボールの質感を近づけようとしていた。
マコトは3人兄弟の真ん中で歳の離れた弟がいてたまに連れてきていた。
ある日、放課後にサッカーをしていたら些細な事でマコトが友達とケンカになった。
普段そんな事で怒らないのにマコトは凄く怒って取っ組み合いになった。
2人は手を振り回して、背が小さかったマコトの手は相手には届かなくて、相手の手だけが何回かマコトの顔にあたった。
そんな事になってしまって相手はマコトに謝ったけどマコトはそっぽを向いて鼻血を拭いた。
マコトは一人で帰った。
誰もマコトを追いかけなかった。
謝って無視されてしまった奴をみんなが慰めた。
マコトは高校までサッカーを続けていた。私は小学生でやめた。それぞれ高校を卒業して時間がたって、そのうちにマコトのオヤジさんが亡くなった。
みんなでマコトの家に行った。マコトの弟は大きくなっていた。
マコトの部屋でみんなで酒を飲んだ。マコトが部屋の角の方をじっと見てから「あ、オヤジ…」と言って笑った。みんなも笑った。
「麻雀しようよ」マコトは明るく言った。ルールが分からずマコトに散々やられた。
何かにつけてチョンボだと言われ、やられっぱなしだから点棒を適当にくすねた。
マコトはイカサマをしていて、私は点棒をくすねていて、「あれ?おかしいぞ」ってなったけどま〜いっかとみんな適当で地域ルールで終わった。
その後マコトには一二度会ったけど大した話もしなかったし特に何も感じなかった。
あの日玄関を出た時にマコトのボールは置いてあったのか、薄れたボールを確認しなかった。あのボールの事を今でも思い返す。
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