「貧乏ゆすりと言わないで」 1.ふるえる

「足、大丈夫？」
あぁ。また言われた。
「うん、ちょっと股関節を痛めちゃって」と喜美（きみ）は取り繕った。これで何度目だろう。
「私この前、キレイな歩き方習ってきたから今度教えてあげるよ！」
「わぁ！ありがとう！是非。」　　　　　　　
と大きなお世話だわと思いながらあたりさわりのない返事をする。
自分ではちゃんと歩いているつもりでも、ちょっとした瞬間にわかってしまうみたい。
少し引きずっている右足。異変を感じたのは数か月前から。
通勤電車のなかで立っていると、右足だけ振るえる。しばらくすると収まるので気に留めていなかったけど、車の運転をする時にやはり右足だけががくがくと振るえる。なんだろうと思いながらやっぱりおかしい。それでも忙しさにかまけて放っておいた。