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さらば北海道

 どれほど長いトンネルもやがては終点に着くものだ。43年から隔年とはいえ6年間つづく北海道の連敗。その昔は青函連絡船で海をわたり、道内の汽車でカニを食べるのが選手にとって最高の楽しみだったというが、近年は “北海道” と聞くだけで拒否反応がでるほどの鬼門になっている。前夜は6投手含む22人の選手を送り出す総力戦の末に敗れ、連敗は8に伸びた。やはり中日にとってどうしようもなくゲンの悪い場所のようだ。

 この日のダブルヘッダーにどちらも負けるようなことがあれば、それこそ目が当てられない。必勝を期す中日は前回登板で約一年振りの白星をつかんだ稲葉をマウンドに送り出した。

 装い新たな円山球場を一目見ようと道内からたくさんの観客が詰めかけた午前中の第一試合。ゲームは初回、3回、5回といずれも大洋が1点ずつ取ってリードするも、中日も高木守の犠飛、広瀬のホームランなどで食らいつく。しかし中日は序盤から塁上をにぎわせながらも決定打がでないあたり、先日久々に勝った稲葉も “勝ち運” に恵まれるには至っていないということか。4回には井上のホームラン性の大飛球がレフト江藤のジャンピングキャッチに阻まれる不運もあった。昨夜も一時勝ち越しとなる本塁打を打った江藤慎一、37歳にして絶好調である。

 以前の稲葉なら辛抱たまらず崩れていただろうが、1勝を挙げたことで余裕が生まれたのか。6回以降は危なげない投球でクジラ打線を寄せ付けず、結局最後まで投げ切った。今季最多の12奪三振と内容もよく完全復調を思わせる出来だった。あとは勝ちがつけば申し分なかったのだが、試合は両者譲らず引き分けで決着。10安打で3得点という中日の拙攻がもったいなかった。

①洋3-3中

*   *   *

 トンネルを抜けるにはこの男に託すしかあるまい。午後の第二試合、中日は満を持して松本を立てた。「北海道は中3日も行けるで」。前回登板後の言葉どおり、この男はチームを救うべく本当に中3日でマウンドに上がったのだ。いったい細身のからだのどこにそんなスタミナを隠しているのか。ジンクスを気に留めない松本の飄々とした性格が中日に追い風を生む。初回、高木守の先頭ホーマーで先制すると、2、3回にも木俣、島谷のタイムリーが生まれて中日が3点リード。序盤で早くも試合が決した感さえあった。

 ところが野球はわからないもので、5回に江尻の3ランでたちまち追いつかれてしまう。なんとしても勝ちたい中日は同点の8回、2死満塁で広瀬が値千金の勝ち越し2点タイムリーを放ち、今度こそ勝負あったかに思われた。しかしその裏、松本が代打重松に2ランを打たれて再び試合は振り出しに。もう北海道ではどうやっても勝てないのかーーそんな絶望的な空気を一振りで切り裂いたのは高木守のバットだった。

 9回、先頭の高木守がこの回から代わった間柴の2球目をバックスクリーン右へ、この日2本目の決勝ホーマー。長かった北海道の悪夢に蹴りをつけた。「あまり昔のことでいつだったか忘れた」。自身5年ぶりの1試合2発にもそっけないのは、いかにも職人モリミチらしい。口数は少ないが、大事なところでガツンと決めるのが高木守の流儀だ。

 それにしても驚くべきは松本の強運である。味方のリードを再三吐き出し、それでも勝ってしまうのだからツキまくっている。「最後までよく投げさせてもらえた。5点取られても完投勝ちできるとはなあ」。これでハーラー単独トップの8勝目。北海道の魔力もこの男には通じなかったようだ。

②洋5-7中

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