見出し画像

鈴木と竹田

 前半戦の中日投手陣を支えたのが松本幸行と星野仙一の両エースならば、後半戦の柱は鈴木孝政と竹田和史、この若きリリーフコンビであることに異論を挟む余地はないだろう。

 チームの泣き所だったリリーフ不足を立ちどころに解消し、投手陣の運用は飛躍的に改善した。8月以降の中日は先発投手が少しでもピンチを背負えば直ちに交代させ、この二人のどちらかが火消しに向かうパターンが定着。二人いるから起用を分散できるのも実に便利で、前半あれだけ投手運用に頭を悩ませていた近藤コーチの顔色がすっかり良くなったのも、この若手コンビの活躍あってこそである。

「彼らは夢中で投げている。それに前半戦、何度も打たれ、つぶされ、苦しい試練を乗り越えてきたのが今生きてきたのです」

 近藤コーチが誇らしげに語る “鈴木と竹田” 。この日行われたダブルヘッダーの第一戦、2点のリードを吐き出してしまった先発稲葉に代わり、4回途中から早くも鈴木が出動を命じられた。

 無死二塁。中日打線の湿りっぷり、加えて相手がエース平松であることを思えば絶対に勝ち越しを阻止したい場面だ。ここで鈴木は自慢の快速球を惜しげもなく連投。なんと辻、米田、平松をわずか11球で3連続三振に取り、マウンドからホームベースまでの「18.44m」の距離だけでこの大ピンチを完結させてしまったのだ。

 5回以降も鈴木の勢いは衰えず、結局9回まで投げきって散発2安打に抑える好投をみせた。味方打線が平松の前に沈黙して試合は引き分けに終わったが、それだけに大洋を寄せつけなかった鈴木の投球が光る。今の中日にとって引き分けは勝利に等しい価値があるのだ。

「勝てると思ったけどなあ。まあ負けなかったからいいよね。今日の僕は球が速かったでしょう」

 随分としゃべりも堂に入ってきた。これまで鈴木が投げた最長イニングは9月12日、広島戦の5回⅔だったので、この日の6イニングは自身の新記録となった。

①中2-2洋

*   *   *

 続く第二試合、直近5戦勝ちなしの中日は必勝を期して松本をマウンドに送った。前回登板の巨人戦では3回途中でノックアウトと不本意な投球だった松本は、この日もいつものテンポよさは影を潜め、外角中心の変化球でかわす投球に終始した。前半戦、左手一本でチームを支えた反動なのか、ここ最近の松本は6回投げるのが精一杯という投球が続いている。

 初回からピンチを背負う苦しい展開となり、その後も5回まで毎回8安打を浴びながら相手の拙攻にも助けられて無失点。しかし、アンダースロー対策で左打者を並べた中日打線も坂井の強気の投球の前に沈黙し、両軍ともにスコアレスのまま試合は折り返しを迎えた。

 ここで中日ベンチが動いた。立ち直る気配のない松本に代え、同じサウスポーの竹田を投入したのである。

「孝政があんないいピッチングをしたでしょ。だから僕も刺激されて頑張らないかんと思ったよ」

 好調時は糸を引くような美しい真っ直ぐを放る竹田。この日も制球、球威共に申し分なく、おまけに唯一の変化球であるカーブも面白いように決まった。

「投げ終わったとき、ピシッとフォームが決まるんです。ボールが先行しないし、カーブも思うコースに行ってくれるし、自分でも乗っちゃったんですね」

 リーグ最高のチーム打率を誇る巨鯨打線にも臆することなくどんどんストライクを投げ込み、そうなると相手も追い込まれるのを嫌って早打ちで凡退を重ねる。好循環に乗った竹田は打つ方でもラッキーに恵まれた。7回無死一塁で回ってきた自分の打席で打った二ゴロをシピンがトンネル。このチャンスに谷木が2点タイムリーで応え、竹田に5勝目の権利が転がり込んできた。うまくいくときは何をやってもうまくいくものだ。

 竹田はそのまま最後まで投げ切った。4イニング投げて許した安打はわずか1本。39球という球数が、この日の完璧な内容を物語っている。

 試合後、鼻下と顎に不精ヒゲを蓄えた竹田が満足げに言った。

「先月28日の巨人戦で投げたときは、味方が逆転したのに長島さんと高田さんに2発打たれてパー。頭にきたね。気分がモヤモヤして剃る気にもなれなかったけど、このヒゲもひょっとしたらツイとるかもね」

 鈴木といい竹田といい、この若者特有の勝ち気な性格こそが中日ブルペンを支えているのだ。ともすると大型連敗もあり得た局面で、悪い流れを堰き止めた二人の活躍は大殊勲に値する。

②中4-0洋
(1974.10.3)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?