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恵みの雷雨

 名古屋に戻ってきた中日は好調松本の快投で大洋に先勝。耐え忍んだ “5月トンネル” も出口を間近にして、そろそろ6月反抗へ向けて態勢を整えておきたいところだ。そのためにも三本柱を担う星野仙、渋谷の復調は絶対条件となるが、そうは問屋が卸さないのが厳しいプロの世界である。

 この日の先発は渋谷。10日の巨人戦から三度の先発登板でいずれもノックアウトされており、前回の広島戦ではわずか3回途中まで投げただけで退いた。肘の重さを訴えているのも気がかりだ。この日の登板は本人にとって、崩れたバランスを立て直すうえで重要な位置づけだったはずだ。

 しかしプレーボールからわずか十数分にしてその目算は狂うことになった。中塚、江尻の連打で無死一、二塁のあとシピンの三ゴロを高木守がワンバウンド送球で併殺ならず1死一、三塁。つづく松原の投ゴロを渋谷が二塁に投げて野選、江藤の右飛をマーチンが目測誤り二塁打とし3点目。さらにボイヤーのタイムリー、米田のスクイズと畳みかけ、最後は辻の2ランでなんと6失点。打者一巡の猛攻を食らった渋谷は帽子を目深にかぶり、ガックリとベンチに引きあげた。

「わからない。慎重に投げているのに……」渋谷自身もなぜ打たれるのかわからないというのだから事態は深刻だ。昨季も渋谷は夏場に調子を落としたが、ここまで連続して打ち込まれることはなかった。単なるスタミナ切れではない、他のどこかに原因があると考えるのが自然だろう。

 第二試合目のプレーボールがかかったのは、大敗から24分後の午後4時3分のことだった。先発マウンドに上がった星野秀もまた一時期の勢いがすっかり萎み、最近打ち込まれることの多い投手のひとりだ。チーム内の立場は違えど、置かれた状況は渋谷とさほど変わりない。大敗ショックの後だけになんとしても首脳陣の期待に応えたかったが、待っていたのは目を覆いたくなるような過酷な現実だった。4長打と2犠打、失策あり、マーチンの拙守あり……。まるで第一試合の焼き直しを見ているかのような展開で、あっという間に5点を奪われたのである。

「体がシャンといかなかった。2回から立ち直れただけに残念です」エラーがらみの不運はあるが、ヨーイドンでいきなり5点はさすがに重すぎる。与那嶺監督は「投手が打たれるからミスを誘発するのよ」と渋谷、星野秀を突き放したうえで、うちは打線がいいから投手がよくなれば立ち直れるはず、と言い切った。

 愚痴のひとつもこぼしたくなるだろうに、一貫して前を向き続けなければならないのだから監督業というのはツライものだ。腹心の近藤コーチもグッと怒りを堪え「あとしばらくの辛抱。6月になれば……」と自分に言い聞かせるようにつぶやいた。“月が変わればツキも変わる” 、そんな迷信にすがるしかないほど、今の中日はドン底に沈んでいるのだ。

 ただ、少しずつツキは中日にも傾きつつあるのかもしれない。ダブルヘッダーどちらも大敗かと思われた第二試合、中日が攻撃中の5回裏に球場付近で発生した落雷で照明灯の約半数が電圧低下により消えてしまい、試合中断。さらに激しい雷雨によって20分待った後、ノーゲームが宣告されたのである。2点差に追い上げて2死二、三塁という逆転機だっただけに手放しで喜べるかは微妙ではあるが、与那嶺監督は「ウチにとってツイていたでしょうね」と中止を喜んだ。

 この日の天気予報は晴れのち曇り。季節はずれの雷雨は予報になかったもので、今の中日にとっては文字どおり恵みの雨となった。

中3ー10洋

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