息子には まだ教えたくない言葉がある
「ねぇママ、お手紙よんでないのにもう捨てるの?」
ポストから束になったチラシを持ち帰り、ゴミ箱に捨てようとした私を見て、息子が言った。
私は捨てるのを躊躇い、ゴミ箱の上で手を止めた。
「ママ見て、ピザのお手紙もあるよ?」
“チラシ”と言う言葉をまだ知らない息子は、チラシのことを”お手紙”と言う。
お手紙か、そんな風に言われたら何だか捨てられない…。
「これはね、チラシって言って、要らないチラシだから捨てるんだよ」とは言えなかった。
一応ざっと目を通したものの、
「もう読んだから捨てるんだよ」とも言えなかった。
「そうだね、じゃあ一緒にお手紙読んでみようか」
このことがきっかけで、我が家に新習慣が生まれた。
それは、週に一度、週末に溜まったチラシをみんなで読むこと。
息子は、いま読める自分の名前の平仮名を見つけ、
「ここにお名前あるよ!」と言ったり、
「車の写真いっぱいあるねぇ」と車の広告をまじまじと眺めたりしている。
一方、1歳の娘は、ピザやお寿司などの出前のチラシを見て「あむ、あむ、あいしー!」と食べるマネをしたり、手当たり次第、ぐしゃぐしゃにして遊んだり。(←すみません)
その横で、私と夫は、不動産のチラシを眺めながら、マンションや戸建ての価格を高いとか安いとか、勝手に査定や解説をし合っている。
そう言えば実家の母はチラシで、小箱みたいなのを作ってたな。と思い出し試みるも、折った瞬間、娘に取られたり。
そんなこんなで、最終的には息子の紙飛行機になることも。
あの日以来、皆がそれぞれのスタイルでチラシと言う名のお手紙を読む時間ができた。
もちろん、いつか息子に「これはチラシって言うんだよ」と教える日が来るだろう。
でもそれは、今じゃなくても良い気がする。
もう少し、チラシをお手紙と言う息子の言葉を感じていたいから。
だから、今はまだ教えたくない。
何より、
「ママ、お手紙いっぱい入ってたね!」
とポストを見て嬉しそうに言う、息子の可愛い笑顔をまだ見ていたいから。
そんな気持ちで、今日もポストに届いた沢山のお手紙を、家族みんなで楽しく読んだ。