「これから日本でバスケットボールが盛り上がるぞ」
それは私が高校2年生だったころの記憶。もう35年以上昔の、ちょうど今頃の季節の話だ。
インターハイの神奈川県予選。先輩たちは快進撃を続け、私たちの高校は決勝リーグの4校に残っていた。そして、その試合に勝てばインターハイ出場が決定するという試合を迎える。対戦相手は松陽。そう、あのスラムダンクでいうところの翔陽である。
試合は一進一退の末、最後は・・・涙をのむこととなった。
スラムダンクで例えるなら湘北VS陵南の試合。我々はあと一歩およばずインターハイ出場を逃すという、まさに田岡監督が「敗因はこの私」と語り、最高のプレイをしたと称えた陵南そのものであった。
そして、これほどまでドラマチックなシチュエーションにもかかわらず、当時、その試合の応援に駆け付けた自校の生徒はほんの数名だった。
一方、ある時、わが校の野球部がなんと甲子園の予選大会で1回戦第1試合を引き当てた。そうなると試合会場は横浜スタジアムである。ざわつく生徒たち・・校内放送が流れる。
「みなさん!ぜひ野球部の応援に行きましょう!」
大挙して横浜スタジアムへとかけつける生徒たち。
17歳の私は思った。
何なんだこの差は
方や全国大会へあと一歩という試合で応援数名。一方でたかが1回戦なのに全校生徒あげての応援・・・しかしこれが当時の、スラムダンクの連載が始まっておらずバスケ漫画といえばダッシュ勝平くらいしか思い浮かばなかった時代のバスケ部の現実。
私は涙し、そして思い描いた。
いつか、きっといつか、バスケットボールが人気となり野球を超える日が来ることを。バスケというスポーツがこの日本で輝く未来の日々を・・・
時は流れ、社会の荒波にのまれまくっていた私はバスケットボールのことなどすっかり忘れていた。そんなある日、テレビか何かでバスケットボールのプロリーグであるBリーグが始まったことを知る。
思い立ち、チケットを取ってサンロッカーズ渋谷VS富山グラウジーズの試合へと足を運んだ。
大学の体育館をなんとか装飾してそれっぽくしている試合会場。客席はところどころまとまった空席もあり、日立の社員だろうか?スーツ姿の一団も見受けられる。専用のスタジアムに数万人集める野球やサッカーに比べると同じプロスポーツといえどもまだまだ見劣りする。
けれども、私はそのときなぜか無性にうれしかった。試合会場に溢れる熱気とコート上の選手たちのハッスルプレイ、その一つひとつが「これから日本でバスケットボールが盛り上がるぞ」といったことを予感させた。
私のBリーグの楽しみ方――それは
「Bリーグが年々盛り上がっていく様を見届ける」
といったものである。
完成された楽しさを教授するのではなく、楽しい世界を一から自分たちで創りあげていく・・・これほど心躍ることはない。
Bリーグの魅力は、そうしたフロンティア精神を、リーグにかかわる皆が共通して持っている点にある。リーグを運営する人たちやもちろん選手も、そしてファン・ブースターたちも皆、「日本のバスケットボール人気を創っていくんだ」といった気概にあふれている。
Bリーグが盛り上がるためには何が必要か? いちファンにすぎない自分だけれども日々色々と考えていた。
リーグを盛り上げるためにはやはりプライドをかけた熱い戦いが必要だ
いいぞ田臥!そうだ!世界を知るお前が皆を牽引するんだ! ファジーカス?!これが世界のバスケというものなのか!
語り継がれるようなドラマチックな物語が欲しい。ナラティブな体験こそが人々をより一層のめりこませるものなのだから
いいぞ川村!そうよここぞで決めるのがスターってものよ。どん底に突き落とされにもかかわらず対戦相手にエールを贈る秋田ブースターと1年でB1に復活したハピネッツも素晴らしかった!
バスケに詳しくない人だっている。プレイだけじゃない選手自身の魅力アピールも人気拡大には必要なんじゃないか?
いいぞ篠山!もっとやれ(笑)
「BREAK THE BORDER」を掲げ、がむしゃらに突き進んでいった初期のBリーグ。レギュレーションの度重なる変化に戸惑うチーム・選手も多かったはずだ。今にして思えば失笑を買うような企画もあったし、メディアに登場する選手たちの不慣れ感にもハラハラした。Bリーグが拡大するために「なんでもあり」状態で突き進んでいったその反動に、結構無理をしている選手も多かったのではないかと想像する。
けれども選手たちは無理を承知で頑張っていたし、そうしたがむしゃらさは見ていて清々しかった。
Bリーグは、日本のバスケットボールは、本当に人気になったと思う。素晴らしいアリーナもこれから全国各地に建てられていくのだろう。
「Bリーグが年々盛り上がっていく様を見届ける」ことは私の何よりの楽しみである。
それはある意味青春の日々のリベンジ・・・いや、これから未来に向け大きく広がっていくであろう、まさに花開かんとする瞬間に立ち会えることの喜びだ。
私も50歳を過ぎたがまだまだ人生を楽しみたい。この先、Bリーグがどれだけ発展するのか? ワクワクがとまらない。
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