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事故物件専門調査員桑津の管理ファイル【とあるマンションの話 後日談】

「それでそれで?その後はどうなったんですの?」

みなみママがめずらしいウイスキーで作ってくれたハイボールをサーブしてくれながら、その後のことを話題に振ってくれた。

いま俺は東京の高円寺某所にあるとあるバーで美味しいお酒を飲んでいる。
「疲れた不動産屋が心休め、居心地良く過ごせる」ことをコンセプトにクラウドファンディングによって作れたバー。
その名も「中間省略」という。
「中間省略」とは不動産用語で「不動産の所有権がAからB、BからCと順次移転している場合に、AからCへ直接登記上の名義を移転することを指す、「中間省略登記」の略である。
今から20年ほど前に流行った節税スキームで、不動産登記法改正後は「第三者の為の契約」と名前を変え「三為(サンタメ)」と呼ばれているものだ。
「中間省略」という用語に馴染みのある不動産屋はまぁまぁのキャリアがあると言えるだろう。
(俺はこのころはまだ司法書士法人の事務員だったが、法解釈を模索して事務所内でよく検討会をやっていたのをよく覚えている。)
サンタメではなく、中間省略をチョイスする時点ですでに渋くて俺好みなのだが、ここはネーミングのチョイスが素晴らしいだけでなく、意匠が素晴らしいのである。

クソ物件GO2022の優勝者としても有名なお鯛さん@otto_morgenが手掛けられたこの意匠。
床面積的には酒チャンスよりも狭いといった、無謀な挑戦にもかかわらず、狭さを感じさせず、開放感すら感じることができる。
なんといっても、カウンターの手触りが素晴らしい。
ザンビア産ゼブラウッドを加工して作られている。
狭い店内への設置の際は、有志による筋骨隆々な男どもが活躍したと聞いている。

そんなお鯛さんや筋骨隆々マンの努力の甲斐あって、素晴らしいカウンターテーブルとなっている。
非常になめらかで、ほどよい光沢感があり高級感があるのだ。
ずっと触っていたくなるのである。

「そうですそうです。あれで終わられちゃあ、
 たまったもんじゃないですよね。」

美味しいハイボールを味わいながら、夢中でカウンターをすりすりしていた俺に、波風さん@sun_suk_eからも催促の合いの手を入れられてしまった。

今日はとあるホテルの売買の打ち合わせで大阪から東京へ上京したのだが、せっかく上京したのだから、「新町ローズタワーに男性の霊がでる」というあの事件に対して、技術的な検証に関してご協力いただいた波風さんへのお礼も兼ねて、波風さんと一緒に、ここ中間省略に来ていたのだった。

「いやぁ、ほんますんません。
 あれからまぁまぁ、大変やったんですよ。。」

そうなのだ、本当に大変だった。
まぁまぁ大ごとになる覚悟はしていたのだが、思いのほか後の処理が大変だった。

「結局あのマンションはその後、
 どうなったんですか?」

波風さんも次の一杯のおかわりをみなみママに頼んだのちに、そう聞いてきた。
今日は今のところ俺と波風さんしかお客さんがいない。
それならば、ここで話してもいいかと思い、

「ええっとですね・・・」

長くなるだろう話を前に、俺は頭の中で簡潔にまとめながら、話をしていった。

まずあの新町ローズタワーの部屋がその後どうなったのか。
結論から言うと、あの部屋はもうSさんの所有ではない。
Sさんはあの後、6階のあの部屋を売却した。
購入したのは・・北松建設だ。
そう、新町ローズタワーの建設を請け負った、あの北松建設だ。

「え、あの北松建設が。
 それはまたどういう経緯で?」

波風さんも驚きを隠せないようだ。

「それはですね・・」

俺はハイボールを飲みながら順を追って話をした。

あの日、SさんやBさんの奥さん、北松建設など皆を集めてベランダの「不具合」を暴いた後、数日経って俺の携帯に見知らぬ番号から電話がかかってきた。
あん?また業者に番号流れたんかな。
めんどくせーな。
そう思いつつ、気怠い声で電話に出たら、なんと北松建設の社長だった。
そういえば、あの時名刺を渡していたな。

「いきなりのお電話ですみません。
 桑津さんを通して一つ、S様にご提案が
 ございまして、その件でお願い事があり、
 お電話いたしました。」

一部上場企業のトップからのお電話である。
一瞬で背筋がシャンとなった。
北松社長の提案とは以下の通りであった。

1.6階のあの部屋を北松建設で買い取りたい。
2.買い取った後はしっかりとベランダの
  補修を施したのちに、自社の社宅にしたい。
3.買値はS様にお任せする。
  仲介は桑津さんにして頂きたい。

弊社は事故物件調査ばかりやっているイメージかもしれないが、
実は・・売買専門の仲介会社なのである。
(という割にはエレ無し5階の管理とかもやってたりするのだが)
条件的に、Sさんにとってはかなりの好条件だ。
それにSさんは霊の正体がわかってからも、未だにあの部屋には戻らず、ホテル暮らしをしているらしい。
Bさんには悪意がなかったにせよ、幽霊がいるかもしれない部屋というのは常人には耐えられないだろう。
出来たら違う部屋に住んだ方がいいのかもしれない。

「それは・・Sさんのご意向をまずお聞き
 しないといけませんが、
 Sさんにとってもいいお話かもしれませんね。
 一度、Sさんにお聞きしてみますね。」

北松社長にそう答えた俺は、さっそくSさんに電話をかけ、意向を聞いた。
するとやはりSさんも売却を考えているようだった。

ただネックなのは、リョータくんのことだ。
せっかくマンション内の保育園になじんだところで、また別の保育園に移るのも可哀そうだし、そもそも今から保育園を探すとなると大変なので、という話だった。
そうだそうだ、あの保育園、マンションの住人だけが利用できる施設だっけ。

うーん、どうしたものか・・と事務所で悩んでいた時に、ひょっこりボスが隣の部屋から顔を出して、にこにこしながら私に話しかけてきた。

「クワツさん、ちょっとご相談、あります。」

うちのボスはスラムダンクやクレヨンしんちゃんが大好きで、昔から日本のアニメや文化に興味があり、3年前に念願叶って広東省から日本にはるばるやってきた中国人である。
今は「経営者」として「経営管理ビザ」で日本に滞在している。
なので、会話の方はまだ少し不慣れなのだが、
来日してまだ3年しか経っていないにも関わらず、「日本語能力試験」の最上級であるN1を既にパスしており、なんと昨年、宅建にも合格してしまったスーパー賢い人なのである。
しかも1回の受検で合格したのよね。
40点取って。笑
すごくない?俺なんて国公立の法学部出てんのに、33点しか取れなかったんだぜ?苦笑

ボスの歳は俺より一回りぐらい下なのだが、俺はボスのことを本当に尊敬している。
今の会社に拾ってくれたのがボスだからということもあるが、何よりも優秀であり、何よりも「誠実」だからだ。
俺はボスほど「クソまじめでバカ正直」な人物には会ったことがない。
そう断言できるほどの男だ。

そんなボスからのお願いである。
聞かないわけにはいかない。

「もちろんです、ボス。
 で、どんなご相談ですか?」

「はい、ありがとうございます。
 実は私のお客様が物件を売りたいと言ってて。
 ちょと急ぎです。
 でもとても良いとこです。
 タワマン?っていうやつですね。」

タワマン?ほうほう。

「はい、高いとこにある、部屋です。
 お客様、1年くらい前にそこを買った。
 でも、住んでない。苦笑
 住もうと思って買ったんだけど、
 お客さんのお母さんが急に亡くなって、
 他にもいろいろあって、日本来れなくなった。
 だから、もう売却したいそうです。
 クワツさん、たしか、そこ、知ってるはず、
 です。」

1年くらい前に買ったタワマン?
俺が知ってるだって?!
まさか・・

「新町ローズタワー、ですか?」

「はい、そうです。そこ、です。
 そこの42階です。
 買ってくれそうな人、いますか?」

うっそーん!!
なんという偶然!!
ボス、あんたやっぱりグレートだぜ!!

そこからはトントン拍子に話が進んだ。
Sさんに今住んでるところより上の階になるが、新築時から未使用の部屋が売りに出されることになったので、新居にどうでしょうか、と提案した。
Sさんは高層階であれば物件価格もそれなりに高くなるのでないかと心配したが、ボスのお客様であるその部屋の持ち主は売却金額に関しても、うちのボスに一任する、という太っ腹なお客様であったので、1年前に購入した金額よりもさらに安い金額で構わないとのことであった。
さらには、Sさんが持っている6階の部屋に関しては、北松建設がSさんの「言い値」で買うと言っているのだ。
となれば、売買金額の問題は解決する。
しかも、新町ローズタワーの中の部屋移動であれば、リョータ君の保育所問題も解決する。
これ以上ない解決法だった。
やはり持つべきものは優秀なボスだな!と実感した。

「えー!!ほんとにそれは奇跡ですわ!
 Jokerさんの日ごろの行いの良さも
 あるんでしょうね!」

今、みなみママがすごい良いこと、言ってくれた。
はい、リピートアフターミー!

「Jokerさんの日ごろの行いの良さ!!」

ありがとう、みなみママ。
もっと誉めて誉めて。
俺、誉められると伸びるタイプだから!!
そう浮かれてお代わりしたハイボールを美味しく味わっていると、波風さんがニヤっとした顔で、こう言ったのだった。

「それはそれは・・Jokerさん。
 ホクホクですな。笑」

思わぬところから飛んできたツッコミが俺を直撃し、飲んでいたハイボールにむせてしまった。

「ンゴ、な、波風さん、いい話をしてるん
 だからそんな生々しいことを言わないで?
(はぁと)」

俺は波風さんにウインクして誤魔化しながら、その場をやりすごそうとしたのだが、

「そうですわそうですわ!
 Jokerさん、売り買いの仲介でしかも
『両手』でしょ?
 すごーい、儲かったんじゃないですか??」

ママでニヤニヤした顔で俺を見てくる。
さっきまでいい雰囲気だったのに。。

「波風さんだけでなく、ママまでそんな・・
 まぁ、それがお仕事ですから。。」

俺はお茶を濁そうとして、ママにお代わりを頼もうとしたのだが、
二人とも追及の視線を外さないもんだから・・

「はいはい、わかりましたよー。
 話しますよ。
 まずは・・Sさんの42階の部屋の購入ですね。
 本来であれば、売却ありきなんですけど、
 今回は売却金額が『言い値』でいい、
 という通常ではありえない条件があったので、
 購入金額に売却金額を合わせるといった、
 変則的な対応になりました。
 42階は新築価格が8,000万だったそうなの
 ですが、売却を急ぐ代わりに、
 7000万でいいと言うことだったので、
 まず弊社で7000万円で買い取りました。
 それで7500万円でSさんに売却を・・」

「え、どうしてですの?!
 私も最近ちょっと勉強してるんですけど、
 そこは普通、Jokerさんとこが『仲介』
 に入ればいいだけなんじゃないんですの?」

「あぁ、Jokerさん・・うまくやりましたね。
 まさに「中間省略」ですね。」

「波風さん、正解です。
 みなみママ、まさに中間省略したんですよ。
 今はサンタメ、ですけどね。」

「えぇ・・Jokerさん、ちょっとびっくり
 しちゃった。
 うちの店名だからあまり言いたくないけど、
 中間省略って業者だけが得するやつですよね。
 それを今回やっちゃうなんて・・・」

みなみママが少し残念そうな顔で俺を見ている。
ち、違うんだよママ・・。

「ママ、ちょっと待って!
 確かにサンタメは業者が中に入って安く買って
 高く売る、みたいな悪いイメージがあって、
 ほぼそれがサンタメする理由なんだけど、
 そればっかりやないんですよ。」

こんな素敵なみなみママには嫌われたくない。
そう思った俺は必死に弁明をした。

「まず今回の売主さんは売却を急いでました。
 本国の方でもお商売をされてて、急に現金が
 必要になったとのことで。
 向こうも色々混乱してましてね。
 あと、どんどん円安が進んでいるので
 早く売りたいというのもあったと思います。
 ただ、Sさんが42階を買うにもまず、
 6階の売却が済んだから、でしょう?
 資金の問題がありますから。
 で、その6階の部屋の売却が北松建設の
 社内での稟議やら承認やら何やらで、
 少し時間がかかりそうだったんです。
 それに加えて、出来たら売買金額を「元」で
 欲しいっていうオーダーだったんですよ。
 単純にそのお客さんとSさんの仲介で
 入っちゃうと、そこまでの手配、
 しにくいんですよ。
 いま、銀行もうるさくて。。
 だからうちの会社が先に買い取ったのです。」

ここまで一気に説明してから、こう続けた。

「あと、これは言い訳に聞こえるかも
 しれないんですが、弊社が中間に入ることで、
 42階の部屋に瑕疵担保をつけることが
 できるんですよ。
 まぁ、未入居で新築同然なのでどこに不具合が
 出るか、これからわからないじゃないですか。
 オーナーは海外にいるし、何かあったとき、
 Sさんも不安だろうなと。
 なのでSさんにも安心してもらった方がいい、
 これ、うちのボスの提案なんです。
 ちゃんと宅建の勉強、活かしてるでしょ?笑

 500万円アップしたのはその瑕疵担保の
 リスクの分と、弊社の利益をのっけた
 感じですかね。
 普通に仲介して正規の報酬なら、
 7,000万円×3%+6万の税込 237万6,000円。
 両手なので倍の475万2000円ですから、
 弊社的には仲介だけしてリスクが低い時の利益
 よりそんなに言うほどプラスになってない
 んですけど、それがうちのボスの考えでして。」

ここまで説明したところ、みなみママの顔も和らいできた。
ほんとよかった。うん。

「ボスのお客さんは早く売れて売買代金の
 7,000万円分を『元』で受け取れて満足。
 弊社買取なので仲介手数料も頂いていません。
 Sさんにしても弊社からの購入なので、
 仲介手数料は0。
 しかも瑕疵担保付きです。
 どうです?これでも俺が悪人に見えますか?」

「Jokerさん、疑ってごめんなさい!
 すごく素敵!最高!
 不動産って奥が深いのね・・」

みなみママが感心した顔で俺を見てくれている。
うんうん、もっと誉めて誉めて。
で、波風さん、あなたも俺に言うことあるんじゃなくて?という顔で横に座っている波風さんを見つめてみたのだが、わざとらしく後ろに飾ってある、
『中間省略十則』に見入ったふりをしている。。
おいおい。。

「誤解が解けたようで何よりです。
 まぁここまでいい感じに進んでいるのは、
 Sさんの6階の部屋が『言い値』で売れるって
 いう特殊な条件によるものなんですけどね。
 それがなかったらこんなことできませんから、
 北松建設社長の計らいに感謝です。
 まぁ『迷惑料』と『口止め料』的な意味合いも
 あるんでしょうけどね。」

するとここで波風さんがしれっと専門家風な顔つきで、こう尋ねてきた。

「そこんとこ、Sさんの家の売却時に売契で何か、
 ”縛って”きたりしませんでしたか?」

なに、きりっとしたお顔で語り掛けてるのよw
まぁ、波風さんぽくていいけど。笑

「それがね、なんもなかったんですわ。
 法務部あたりが何かチャチャ入れてくる
 かなと警戒したんですが、なーんにも。
 あ、逆に重説には、
 『ベランダに不具合があるがそれは、
  新築時からのものであり、買主はそれ
  を了承する。』
 という文言は入れさしてもらいましたし、
 売契にも、
 『引き渡し後に買主の責任によって、
  ベランダの補修をするものとする。』
 という文言まで入れさせてもらいました。
 それも北松建設は何も言ってこなかった
 ですね。
 恐らくですけど、北松社長が抑え込んで
 くれたんやと思います。
 一部上場企業といっても息子の不始末は
 自分で何とかしたいっていう親心なのかも
 しれませんね。』

波風さんは、なるほど・・と言いつつ、ママにまたお代わりを頼んだ。

「で、6階の売買の方は買主に気兼ねが
 要らないので、売り買い両方の仲介に、
 入らせてもらいました。
 実際は北松のグループ会社が出張ってきて、
 しれっと共同仲介を持ちかけてきたんですよ。
 ろくに仕事もせんのに仲手を要求してくる
 やーつー、です。苦笑
 そこも北松社長に話をしたら、社長はそんな
 指示出すわけもなく、社長に無断で営業部長が
 やらかしたとのこと。
 目の前に営業部長が呼び出されて思い切り
 怒られてました。笑
 それでシュン、となって散っていきました。笑
 で、弊社は買いの北松建設から、
 物件価格7,500万円の正規の3%+6万の税込、
 237万6,000円、買いのSさんからは、正規の」

「え、Sさんから正規の金額取りましたの?」
「Jokerさん、ほんとあくどいんじゃないの?」

みなみママも波風さんも、二人同時にそんな責めなくても・・
店内、俺と波風さんとみなみママの3人だけだからよかったものの、Jokerさんの評判ガタ落ちになっちゃうじゃないですか・・。

「いやいや、落ち着いて。苦笑
 正規の金額はさすがの俺でも請求しませんよ。
 今回の経緯も知ってるし、これは今回の調査の
 依頼者の藤原さんとこからですけど、
『事故物件の調査報酬』も頂いてますからね。
 だからSさんには、ロハでいいですよって、
 言ったんですよ。」

「ロハ、ってなんですの?」

みなみママがわかりやすい『?』を飛ばしながら俺に聞いてきた。

「あぁ、ママ。こっちではあまり使わない
 言葉かな。
 ロハっていうのは、上下に書くと、
 只っていう漢字になるでしょ?
 タダ、無料ってことですよ。
 ね、Jokerさん。」

「波風先生、レクチャーサンキューです!
 その通り、タダでいいですよってSさんには
 お伝えしてたんです。
 でもね、Sさんが言うには、
 『桑津さんはしっかりとお仕事をしてくださる
  方です。
  あの部屋の調査も完璧でした。
  そういう方には私も正当な対価を
  お支払いしたい。
  私が働く夜の世界でも同じようにしっかりと
  仕事をして対価を頂いて、生きているから。
  それでなくても、今回もっといいお部屋に
  住むことができるのですしね。
  桑津さんにはどれだけ感謝したらよいか。』

 と押し切られてしまいまして。。
 でもさすがに購入も売却もさせてもらう
 わけですからってこっちも逆にお願いをして、
 少しお値引きさせていただいて結局、
 2%の税込165万を頂きました。」

「おお、それでは売却仲介で合わせて400万、
 購入の仲介でええっと500万利益があったから、
 今回の売り買いで900万ですか!
 Jokerさん、ゴチになりまーす!」

って波風さん、おーいw
確かに今回は波風さんの協力御礼も兼ねてるけどさ。笑

「Jokerさん、おめでとうございます!!」

ママも満面の笑みで、何か後ろの棚から高級そうなボトルを出そうとしている。。

「ちょっとちょっと、お二人さん!
 申し訳ないんですけど。
 俺、肩書は営業部長なんですけど、
 『インセンティブない民』なんですよ?
 ご存じでしょう?
 ボーナスをこよなく愛する平社員ですから!」

「とはいえ・・ボーナスには反映、されますよね?」
「されます・・よね?」

二人は依然とニヤニヤしている。

「ははは、わかりましたよ!
 今日は良いお酒をバンバン飲みましょう!!」

そこからみなみママの美味しい手料理を頂きつつ、かずおさんが仕入れてきた美味しい焼酎や、みなみママが独自で開拓した「飲むほどに健康になる不思議なお酒」など、他では飲めないようなめずらしいお酒を波風さんと楽しんだ。

ここは不動産業界の人間が夜な夜な集まる隠れ家。
高円寺にある会員制のバー。
その名も「中間省略」。
今夜もひと仕事終えた者たちが、みなみママに癒されに、明日への活力を養うためにやってくる。

我々の楽しい夜もまた、まだまだ続きそうだ。


事故物件専門調査員桑津の管理ファイル
【とあるマンションの話 番外編 完】

この物語は一部フィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。

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