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18thショパンコンクール イチオシコンテスタント【STAGEⅡ感想①】

トップの写真は私の楽譜ちゃんたちです。
上がワルツ、下がエチュード。エチュードは日本語版ですが、ワルツは英語版。この楽譜は私が小学校2年生の時に買ってもらったもので、当時日本語版のパデレフスキ版はまだ刊行されていませんでした(年齢が……)。表紙破れてるし背表紙もすべてはがれてます。

それはそうと。
STAGEⅡの結果が発表されました。

今回はファンの多い人気のピアニストが複数参加していることもあり、諸々議論が沸き起こっているようです。まぁショパンコンクールでは毎回恒例の風景ですね。

私個人としては、全体としてはまぁこんなもんだろうか、という気がしています。勿論、残念な結果になってしまったコンテスタンアトの中には「もっと聞きたかった」「残ってくれてもいいのに」と思う人たちがたくさんいました。

ショパンコンクールの場合、審査基準はYes/Noとポイント。「もう一度演奏を聞いてみたい」と思われればYesで、そうでなければNo。言うまでもなく、ミスタッチの回数だとか指定のテンポだとか、そういう明確な指標があるわけではありません(とあるテレビ番組を連想させるような言い方してごめんなさい)。
どんなに上手くて華麗な経歴を持っていたとしても、「また聞きたいな」と思われなければNo。ミスタッチが多く、不器用さが前面に出ていたとしても「この人なんか面白いな」「もう1回聞きたいな」と思わせればYes。そういうことだと思っています。

政治的なこと、国の関係、誰が誰の弟子で…みたいなことを推測しはじめたらキリがありません。推測は的を得ているかもしれないし、お門違いかもしれない。いくら考えても、外部の人間が真実を知ることはできません。
「素敵な演奏に出会えればOK!」という目線で楽しむのが、私なりのコンクール鑑賞法です。

STAGEⅢ進出が決まったコンテスタントのうち、特に期待しているコンテスタントについて、それぞれの曲に沿って振り返ってみたいと思います。

Hao Rao / China

バラード Op.47(3番)
散々聞いたバラードなのに新鮮に聞ける。正統派な表現なのに耳をそばだててしまう求心力、自然な歌心。素直な音。

ワルツ Op.34-1
ポリフォニックで上品かつ楽しい!すごく歌うけど甘すぎなくて本当にいい。華やかで明るくて、1800年代の貴族のサロンが見えてくるような演奏。明るいワルツ大好き!本当に気持ちいいところでタメ、ルバート。軽快だけど軽くなく、深いけど重すぎない音。オーソドックスなんだけどつまらなくない、ワクワクできる演奏。

バルカローレ Op.60
若干ピークが合わない感じはありつつも、うまく切り抜けた印象。

アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
高音が美しい。クレシェンドのかけ方、とてもセンスがいい。気持ちいいなー。悲し気な顔で微笑んでいるかのような、ショパンの抒情性を感じさせる。浪々と歌うタイプの曲より舞曲的な曲が得意な印象。コロコロ回る音、小気味いいトリル。デュナーミク、アゴーギクの利かせ方が素晴らしい。緊迫感のあるフォルテ、すごくかっこいい!音も全然潰れない。「ショパンが言いたかったこと」をひとつひとつ教えてくれるようなフレージング。どこまで音色が多彩なんだろうか。難しいポリフォニーも絶妙のバランス。おそるべき17歳。ずっと聞いていたい。CD欲しい。


Kyohei Sorita / Japan

ワルツ Op.34-3
冒頭、思わずわー!と声が出てしまった。モヤっとした霧のような空気を纏いながらも芯のある弱音。内声もおしゃれ。軽々とミスもなく、とっても可愛い猫。

ロンド・ア・ラ・マズ―ル Op.5
予備予選で聞いた彼のマズルカが本当によかったので、とても期待。反復的な箇所、対比的な箇所、などを浮き立たせるような演奏で構成力抜群。ポリフォニックな演奏がホントにおしゃれで、同じ国の人間として鼻が高くなってしまう。日本人、もうリズム音痴とか盆踊りとか言わせない!音自体は決してうるさくならないのに、華やかで軽々としたアルペジオやスケール。音色がめちゃくちゃ多彩で、場面がくるくる移り変わってすごく楽しい。鳥がさえずるようなトリル。なんだろう、昔のディズニーの作品のような……ファンタジアとか?動物とかホウキとかティーカップとか、が笑ったり歌ったりしながら踊ってる感じ。あっという間だった。こういう音楽性って、単にピアノの前で指動かしてるだけじゃ身につかないものだよな、と改めて思う。

バラード Op.38(2番)
予備予選でも弾いてたバラードだけど、7月より力が抜けて自由度が増した&板についた印象。美音。曲の構成がしっかり考え抜かれている。手首がふわふわで本当に力みがないのよねー。メカも全くスキがなく、全くミスがない。安定感半端ない。
(配信の音量が意図的にいじられたようで聞きにくかった。コンクール運営様、このあたりの調整は事前にちゃんとしてほしい)

アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
アンダンテ、低音の深い響きと右のキラキラの音のバランスがいい。どっちも立って聞こえる。でもどちらもお互いの邪魔をしない。観客席の雑音にも全然動揺しない。自分の音楽に集中している反面、入り込みすぎていないというか、観客の様子を伺ってさえいるような余裕すら感じる。そしてご本人が何より楽しそう。ポロネーズ、打鍵が浅い。画面見てるだけでもめちゃくちゃ勉強になる。最後若干安全運転に流れた感じはあったけど、それにしても素晴らしい安定感と表現力。本人も弾き切って満足そう。


J J Jun Li Bui / Canada

華麗なる変奏曲 Op.12
最初のフレーズで音楽がきちんと構成されてることが分かる。巧みだー。音が澄んでいて無駄がない。美音。緊張と弛緩の具合がベスト。打鍵が深すぎないけど芯を捉えてるのが分かる。キンキンに冷えたアイスみたいな爽やかさ。表情も豊かで若々しい。

ファンタジー Op.49
デュナーミクの付け方がドラマチック。そしてフレージングが非常に丁寧。でももたついたり流れが止まったりしないので気持ちがよく、安定感がある。ペダルの生かし方が上手い。中間部は月夜みたいでロマンチック。

ワルツ Op.64-3
ポルタ―トの指の妙!正統派だけど聞かせる。めちゃくちゃ素直なよい子が、キラキラしながら一生懸命練習した曲、という印象。

アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
華麗で煌びやか。推進力があって、デュナーミクも自然で気持ちいい。洗練されてて、現代っ子のショパンって感じ。キラキラのコーダ最高だった!ブラボー。本人の表情が瓢々としていているのもいい。


反田さんの「マズルカ風ロンド」でテンション爆上がり&書きまくり、になっていたことが、文字量で一目瞭然ですね……
いい演奏を聞いた時はもちろんですが、悪い意味でおいおい!となったときもタイピングの手が止まらなくなります。なので、必ずしも「文字量=私が魅力的に感じた演奏」ではありません。悪しからず。

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