かしまし代行屋奇譚
「うちの会社については?」
バイトの応募に来た矢来君は窮する事なく「家事代行的な」と答えた。
私は頷くと「家の事が疎かになりがちな方達の、普通の生活のお手伝いをする会社です」と続けた。
頷く彼の履歴書にもう一度目を通し、『特技』について改めて訊ねた。
「…で、特技が超能力と」
「まぁ、正式には置いてくるだけなんですけど」
「置いてくる?」
矢来君は机の上の消しゴムを掴むと、目の前にかざした。
「これ、手を放したら落ちますよね」
それはそうだろうと思う私に「でも、ここに置いたらどうです?」と矢来君は言うと、消しゴムから手を離した。
確かに宙空ではあるが、目の前に消しゴムが置かれている。
一旦落ち着こう、と矢来君に許可を貰い、懐から取り出したタバコを咥える。
その先で右手の指を弾いて火を付けた。
矢来君が「超能力ですか?」と聞くので「いや?ただの静電気です」と私は答えた。
【続く】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?