流浪の老体

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不成忍ノ者

袖がぼろぼろの使い古された着物と、これまたぼろぼろの風呂敷を背負った出で立ちで、多助は街道を喜々として歩いていた。 上背がある。 筋骨逞しく、重さを感じさせる体躯ではあるが、その足運びは端から見ても軽かった。 終始上機嫌であろうその顔は、街道の木々や空行く鳥、足元の草木に向けられ、兎角忙しない。 何がそんなに楽しいのか分りかねるが、感情を隠しきれていない様に映る。 多助は非常に目立つのだ。 やがて多助は、沢山の人、店で賑わう宿場町へと辿り着いた。 多助は、目に移る全て

    • 異世界転生してきたらしい救世主(自称)が諸事情で全く使い物にならない件

      「壊すだけの俺の力…、まさか活かせる場所があったなんて」 不意にこの地を訪れた異世界の男は、確信めいた様にそう告げた。 「タケル君。俺の力で世界を」 「いや、志は伝わるけど」 とタケルは遮った。 「救世主?みたいな面倒なの、俺なりたくないし。それにあんたさ、…首じゃん」 「タケル君」 「生首じゃん、無力の」 …説明が必要ですね? 目の前に置かれている首は、どうも異世界?から来たとか。 彼が言うには、向こう側の力はこっち側では強大過ぎるらしく、そのまま転生すると

      • かしまし代行屋奇譚

        「うちの会社については?」 バイトの応募に来た矢来君は窮する事なく「家事代行的な」と答えた。 私は頷くと「家の事が疎かになりがちな方達の、普通の生活のお手伝いをする会社です」と続けた。 頷く彼の履歴書にもう一度目を通し、『特技』について改めて訊ねた。 「…で、特技が超能力と」 「まぁ、正式には置いてくるだけなんですけど」 「置いてくる?」 矢来君は机の上の消しゴムを掴むと、目の前にかざした。 「これ、手を放したら落ちますよね」 それはそうだろうと思う私に「でも

        • 継ぎ接ぎの裁断者

          スーツの男が差し出した紙切れ‐依頼状‐を一瞥すると、継ぎ接ぎだらけのコートの男は舌打ちをした。 「バラバラにするとこだった」 コートを翻すと、男は明かりの方へと歩き出した。 後をついて行こうとして直ぐに、“スーツ”はそれがどういう意味かを知った。 鼻に何かが触れた。 それは、不用意に触れれば切れてしまいそうな、透明な『糸』。 周囲をよく見れば、いたる所に同様の『糸』が張り巡らされている。 予め張り巡らせていた「仕掛け」と、先の“スーツ”が“継ぎ接ぎ”に仕掛けた一刻の

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        • 不成忍ノ者
          1本
        • 転生失敗あるある
          1本
        • かしまし代行屋奇譚
          1本
        • 継ぎ接ぎの裁断者
          1本