パニック障害者が観る映画『ミッドサマー』

 ついに…ついに見てしまいました…。忙しさとコロナで完全に逃していたあのアリ・アスター監督の最新作を…。

アマプラで見たので結構カットされてる部分が多いだろうなと思いつつ、先ほど見終えました。やばい。やばかったので鉄が熱いうちに打ちます。キーボードを。

 まず最初に言っておくべきなのは私は専門家でもなんでもねえということです、あくまで趣味で知っている範囲で書いていきたいと思います。

 ストーリー紹介はもう他所でさんざんやってるだろうってことで割愛させていただきます。要はヘレディタリーです。

この映画を見た日本人たちがこぞって、ドラマ『TRICK』のようだった、と語るのに納得しました。これはね、まあ端的にいうとすごく日本的だと感じました。おそらくキリスト、ユダヤ、イスラムなどの一神教を信仰するひとたちには到底描けない世界だと感じました。でもコミューンて言葉があるくらいだから実際外国にもこういうとこもあるのかわからんけども。異教とか邪教って呼ばれるようなところはこんな感じなのかな。事件起こして掴まってる悪魔崇拝のニュースとか見るし。

独特なシンボル、独特なポーズ、独特な生活形態…そして倫理の破壊とそれを共有することでの共犯意識のめばえと共依存的人間関係。日本のカルト宗教と呼ばれるコミュニティではだいたいやってるんじゃないでしょうか。よくある一家監禁殺人事件とか。龍が如くシリーズでさんざんネタにもされていましたしね。まあ言っちゃえば洗脳教育ですが。わかりやすい映画は『WAVE』、『es』あたりでしょうか。とにかくこの監督は、よくそんなことまで知っているなあと。TRICKで登場するヘンな集落とヘンな一族の話とか、茶化されてはいるけど要はコレですよね。よろしくーね!のポーズとか。変な敬礼で唄詠むやつとか、やってることは一緒です。最終シリーズの山田の故郷の話なんかにも通じることがある。そんな“狭いコミュニティ”の描き方に、日本人は類似性を見出したのではないでしょうか。まあ遡ったら密教の修行とかもこんな感じでしょうけどね(暴論)。でもこれを異常だと思わず、まあそういうところもあるんだろうねなんて受け入れられちゃうのも日本人のヘンなところでしょうなあ…。

 さてこのミッドサマー、コミューンの描写もさることながら、主人公ダニーの心身の変遷とそれをとりまく環境の絶妙な気まずさも特筆すべきところかと。実際私も、ダニーが発作を起こすシーンに心当たりしかなく、過呼吸に引きずられそうになり、休憩を挟もうかと思いました。結局夢中になってたので一度も止めませんでしたが。

ダニーはいちいち、気分を害したタイミングであっても「いいの、私が〇〇だから」「理解しているつもりよ」と取り繕います。これ別にパニックとか関係ねえかもしれねえけどめーーーーーちゃくちゃわかる。抑うつ傾向にあるダニーにとって一番辛いのは、恋人クリスチャンがいともたやすく行う“特別扱い”なんです。「ダニーがこう言ったから」「ダニーと一緒に休むよ」。パニック障害患者にとってこれが何よりの苦痛になります。いや、優しいのは助かるんだけど。お願いだから一人にしてほしいんですよね。責任を負いたくない、そこに存在していたくないんです。だからダニーは決まって「私に構わないで」という姿勢を保ち続けるんです。こんな彼氏はよ捨てな。イケメンだけど。

で、そんな心理描写にあるある~と共感を抱きつつも。私がおお、と感嘆したのは、ダニーが初めてマジックマッシュルームキメたシーン。私も仕事か何かで調べたことがあるんですけど、あのテのものでハイになる寸前ってめっちゃくちゃ気分悪くなるらしくて。とくに鬱っぽい人はもう最悪らしいです。ダンスを踊りながら日差しと過呼吸で眩暈に襲われていくシーンや、どこを見ていても植物がウネウネと生きているような錯覚。まさに、です。あれ普段の飲み物にも大麻混ざってんでしょうね。

この映画の前評判的なので、“パニック障害やうつの人は観ないほうがいい”なんてのが結構広く流布されていましたが。

私はむしろ、この映画を観て、結構救いみたいなものを見出しました。

というのも、主人公ダニーは開始早々家族が無理心中して、彼氏も病気に理解がなく、居場所がない状態なんですね。ダニーたちを誘ったペレによってじわじわと自己肯定されていたところに、女王になったことで一気にダニーは解放されるわけです。ホルガじゅうの人々が笑顔で彼女を迎えてハグし、“女王ダニー”という人間を無償の愛で受け入れ、一緒に食事をとって笑ってくれる。冷たい目でダニーの真横を通り過ぎた母親は、文字通りダニーの前を横切って消えてしまったわけです。

私はダニーが、クリスチャンがマヤとセックスしているところを目撃して発作を起こし、それを村の女の子たちが囲んで一緒に呼吸し、一緒に泣き叫ぶシーンに、ある種の温もりを感じ取ってしまいました。ぶっちゃけ泣きました。たしかにダニーにとってここは家族なんです。確かに手法は洗脳的だし、やっていることはおかしいかもしれない。だけど、ダニーのように、そういった世界に縋らないと生きていけない人がいるのも確かなんです。ダニーにはホルガが合っている。

 物語の最後も、私にはハッピーエンドに感じられました。ホルガで死ぬことは確かに救いであり、ホルガで生きることもまた救いである。まあ、監督がどっかでコメントしてたようにこれはダークコメディであってそんなシリアスなもんでもないと思いますが。後半の怒涛の追い上げはそれこそまんまヘレディタリーを彷彿とさせましたがそれでもイカレすぎててずっと笑ってました。目にお花て。くまさん焼きて。何はともあれ幸せになれてよかったね、ダニー!(これからもそうとは言ってない)

 ほかにも細かいところでいうとアメリカとスウェーデンでの衣装の対比とか、まあ奇形児がいる時点でそうだろうな!と思ったとことかありますけど。個人的にはこれはホラーじゃないです。なんだろう。早急にこのジャンルに名前をつけないといけない気がする。

しかしホント不思議なんですよね。この…なんだ。カルトとか土着信仰とか都市伝説とか集団心理とかの感じ。だって、めちゃくちゃ宗教フリーな日本人の私が趣味で知識として持ってるんですよ。と思って調べたら、アリ・アスター、小泉八雲とかジャパニーズホラー好きなんだね。あっそう…。

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